特集 複数居住の期待と現状
~マルチハビテーション~
1988年に行なわれた研究をレビュー&フューチャーします。
当時調査に参画していただいた3人のマルチハビテーターに追跡調査を行ない、現在そしてこれからの複数居住の広がりをレポートします。
また、近年住みたい場所No.1として注目されている沖縄について、複数居住先としての魅力を探ります。
[1]研究概要
長谷川文雄
IT評論家 工学博士
20年ほど前から、マルチハビテーションに関心を持ち、自身も東京、大磯、山形(この三月まで)の3拠点で複数居住を行っている。
著書に『定住を超えて-マルチハビテーションへの招待』がある。
ハイライフ研究所の98年調査を担当した。
[2]銀座に隠れ家をもつ
山本勝彦
アートソムリエ
仕事、社外活動、趣味を3本柱を両立させるサラリーマン。自宅とは別に、銀座のとある隠れ家にも趣味のアート作品と住み続けている。
近年は、若い人、ビジネスマンへのアート普及に努め、新聞、雑誌、テレビなどのメディアでも数多く紹介されている。
「アートソムリエ講座」を開催するとともに、「隠れ家のひまつぶし」編集長もつとめる。
[3]アピアピ バリでの生活
松浪龍一
バリに別荘「アピアピ」を建て、自らマルチハビテーターとして日本と行き来する生活をはじめた。近年は、マルチハビテーターを実践する仲間が増え、「アピアピ」の人気、利用率も上昇中。
<アピアピの現在の状態>
バリの別荘”アピアピ”は,今も健在である。
年間を通して、ほぼ毎月のように誰かが利用している。
メンバー以外の利用も増えたので、一応の利用規程をつくった。しかし、管理人はホテルをやっているつもりはないので、普通のサービスはできない。よく事情を知らない人に迂闊に貸すと、予想以上に喜ばれたり、逆にクレイムをいただいたりする。なかなか難しい。それで、毎回のように利用規程を改定している。
アピアピを建てた時に植えた庭の木が大きく繁茂して、当初はライステラスを見渡す田園のコテージという趣だったのが、今では森の中の隠れ家のようになってしまった。周辺に新たな住宅や別荘が建ちはじめたので、これはこれでうまい目隠しになっている。
茅葺きの屋根は20年はもつだろうといわれたが、築13年ですでに2回葺きかえなければならなかった。途中で椰子の木の柱もシロアリにやられて何本かつけかえた。熱帯のスコールのもとでは、絶え間ないメンテが必要である。
<この7年のアピアピ生活>
わたし自身は,家族の事情もあって、この4年ほどアピアピに行っていない。しかし,メンバーやその家族、友人などいろいろな人たちが利用していることもあって、情報はいつもはいってくる。
何年か前に、村のお寺の大規模な増改築が行われた。村の要請で、正面大階段の両脇の石彫りを寄進した。ナンディスワラという高さ3メートルの石彫り(仁王様または狛犬に該当)1対と、ナーガの石彫り(手摺りの蛇の彫刻)1対である。メンバーを中心に寄進者を募って、記念に全員の名前を大理石の銘板に刻んではめ込んだ。落成祭の後に行ってみたら、銘板がとりはずされていて、そのかわりに唐草模様の石がはまっていた。祭に来た知事か誰か偉い人が、これはおかしいからはずすように、と指示したのだそうだ。こういう情報はどういうわけか入ってこないが、だれそれが病気になったとか、どこの店が売りに出ているとかいった情報は、管理人が電話で知らせてくる。
行った時には、やはり何もしないで気ままに暮らすことが多い。たまたま村の大きなお祭りなどに出くわすと、村人として手伝ったり、野次馬になったりしながら適当に楽しむ。何もない時には、アピアピを拠点にして周辺の穴場探しなどで時間をつぶす。ある島におとぎ話に出てくるようなホテルを見つけたので(詳細は言えません)、そこに行って過ごすことも多い。
<バリ・マルチハビテーションの評価>
わたしのやりかたをマルチハビテーションと言うのが、正しいかどうかはわからないが、アピアピのあるペネスタナン村に若干の帰属感をもっているのは事実である。
願わくは,バリ州あるいはペネスタナン村での社会的生活を営みたい、という気持ちもなくはない。ペネスタナンのあるウブドゥ郡では、地元の若手経営者が集まって観光開発の戦略づくりをやっている、という話しを聞いた。そういったプロジェクトに協力する、というのもひとつ。ペットボトルやビニール袋などのプロスチックごみのリサイクル事業を進めて、村の環境改善や収入の創出に力を貸したいとも思うが、これもひとつ。さまざまなネタがある。
ただし今のところ、帰属感はあるものの、社会的アクションに最後まで責任をもてるような立場にはない。まだまだ気楽な観光客である。
しかし、マルチハビテーションの最大の効果といえる「お互いの刺激」という点では、アピアピは成果をあげていると思う。わたしたちが行って村の生活から受ける刺激の数々は、まだとても尽きない。アピアピがあることによって、友人がバリのリゾートホテルと免税品店だけでなく、集落の生活にも触れることができること、これも大きなことだと思う。
わたしたちの行動やアピアピの設営そのものが、また同じように村の人たちの刺激になっているはずである。アピアピの外壁は小さな玉石をびっしり貼り付けてあるのだが、これが評判で真似をするところがちらほら出てきた。新しい様式の流行である。嬉しい。
<マルチハビテーションを通じて、自分のライフスタイルがどう変化したか>
日頃はあまり意識しないが、よくよく考えてみると、次のような変化があったかと思う。
まず、リフレッシュ旅行をするのに、目的地に迷うことがなくなったこと。バリはいつも新鮮で、毎回驚きがある。それに、様子がわかっている分だけ安心できる。でかけるのに準備がいらない。今日にでも行ける。おかげで、他の国にはあまり行かなくなった。
それから、バリでの刺激が日本での生活や仕事に生きていること。バリは、ひとことでいえば文化的生産力の極めて旺盛な島である。椰子の木の堅い材を、チェーンソウ一本で板材に加工してしまう。大きな木にまたがって、手斧ひとつで巨大なガルーダの木彫を彫ってしまう。素足でもんだ赤土をもみ殻で野焼きして美しいレンガを焼きあげる。軒下でセメントを混ぜて型枠にいれ、ちゃかちゃかとコンクリートブロックをつくる。こういった中間技術が日本の日常で求められる機会は多い。そういう局面で、バリでの見聞はずいぶん勇気を与えてくれる。
<外国でマルチハビテーションをする人に対するアドバイス>
アピアピには、管理人がいる。半ば成り行きでそうなったのだが、これはよかった。
外国に自分の家をもったとしても、日本での生活がある限り、そんなに頻繁に行けるものでもないし、しばらく何年も留守せざるをえない場合もあるだろう。そんな時にも、現地の家が自立的に維持できるようにしておくことは、重要である
アピアピには、隣接してカフェを併設してある。管理人は、現地のエージェントと組んで適当に商売をしているようだ。そんなに売上があるわけではないが、ときたま売れる絵(管理人は絵描きである)の代金とあわせて、親子が食べていく程度の収入は確保されている。こっちも安心である。
<今後の展望>
さて、管理人にも3人目の子どもができたことだし、そろそろ様子を見に行かねば、と思っている。
インドネシアでは津波や地震で大きな被害を受け、バリではこの間、2度のテロ事件に見舞われた。そのおかげでバリの観光客も激減し、すっかり様子が変わっているということだが、アピアピはいずれの事件・災害とも関係なく安泰な日々を過ごしている。
アピアピの物語はまだまだ続くだろう。あまり力まず、これまで同様気楽にやっていきたい。あいかわらず”ティダ・アパ・アパ”のままである。
松浪龍一
[4]国内外に移り住む
松矢俊明
ハワイそして、伊豆、湯河原と国内外のいくつかの拠点でのマルチバビテーションを継続。影響をうけた子供たちもサンフランシスコと日本を行き来する二世代のマルチハビテーターとして成長。
<伊豆の別荘などの今の状態>
伊豆の別荘は、ハワイから帰って少しの間住まいとして使用していた。
ハワイの家とのギャップを感じて、2002年6月に同じ伊豆で2000m2の土地に330m2の建物付きの物件を見つけたので、以前の別荘を売却して新たに購入した。
また新たに、2006年に神奈川県湯河原に家を購入して引っ越した。ここは今までの家に比べて、生活のスタンスを考えると少しでも東京に近い(友人や肉親がいる)ところでもあるし、畑があり犬が遊ぶ場所もあるので、住まいの拠点とした。
<この7年の別荘生活>
私としては、この7年間はいろいろな場所を見て感じてきたが、そこへ旅行だけに行くのではなく、ステイすることで、その場所の良いところ、悪いところが見えて、深く知ることができたと思う。
<今日的に見たマルチハビテーションの評価>
今日的というよりも複数の家での生活は、私には今後もぜったいに必要なことであると考えている。
<マルチハビテーションを通じて、ご自身のライフスタイルがどう変わられたか
外国での生活で、ライフスタイルは一変した.以前にも申し上げた通り、日本では知り得なかった人々、生活習慣,食べ物,自然等、外から見た日本、今までとは違った目線でいろいろなことが見えてきた。
これは自分自身のことではないが、私たちの子供たちも、いろいろと広い視点で物事を見ているようだ。今長男は、サンフランシスコで国際会計士になり、日本でも家を持ちたいと言っている。これも私とともに歩き回った結果であると思う。
<外国でマルチハビテーションをする人に対するアドバイス>
まず、その国に合った生活資金が必要。ギリギリでやっても楽しい外国生活は無理だと思う。
滞在期間は1年を通して、1/3くらいの割合で外国に行くのが良いのではないか。一カ所に長い間居すぎると廻りの人との煩わしさが出てきたりする。良いところだけ楽しんで、また日本で住むというスタンスが良いのではないだろうか。
<今後の展望>
年齢のこともあり、また夫婦二人での生活になるので、やはり家は交通、買い物などの便利な所とし、他には自然と温泉があるところ、外国では不動産を購入するのではなく、アパートメントに住み、年に1/3くらいの割合で楽しんでゆくつもりである。
[5]一番住みたい場所 沖縄
下地芳郎
沖縄県東京事務所副参事
アンケート調査で一番住みたい場所として注目された沖縄。マルチハビテーターを受け入れやすい県としてさまざまな施策に対応。これからの新しいライフスタイル、居住環境づくりに力を入れている。
[6]総括
長谷川文雄
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