クリチバのジャイメ・レルネル元市長は、都市が抱える問題を手っ取り早く解決するべき方法論として「都市の鍼治療」を提唱しています。
多くの課題に直面する都市は、さながら病人のようです。そして、都市の鍼治療とは、その都市の病を根本的に治すことは難しいけれども、効果的に「鍼療法のように治す」ことは可能であるという考え方にもとづいた方法論です。
本データベースは、このレルネル元市長の「都市の鍼治療」という考えにのっとり、内外の「都市の鍼治療」事例をシリーズで紹介していきます。
166 クリチバのバス・システム
ブラジル・パラナ州の州都であるクリチバ市は、効率的でユニークなバスの運行システムで知られている。赤い3連節の長いバスが市内の専用レーンを颯爽と走り、チューブ状の未来的なデザインのバス停留所では、バスが到着するたびに自動踏み板が降り、短い停車時間で乗客が乗り降りを完了すると速やかに走り去っていく。クリチバのバス・システムは、コロンビアのボゴタ、インドネシアのジャカルタ、韓国のソウルなどで模倣され、クリチバ・モデルとでも呼ぶべき効率的なシステムを実現している。
167 パリ地下鉄のアールヌーヴォー・デザイン
パリの地下鉄駅は、地下鉄という公共施設であるため、多くの人が利用する。そのような施設において、アール・ヌーヴォー時代のパリを思い起こさせるこの地下鉄駅の意匠は、都市の貴重な記憶を継承させる装置としても重要な役割を担っていると考えられる。特に、取壊を免れたポルト・ドフィーヌ駅とアベス駅はオリジナルな姿を今日に伝え、建築文化遺産としても重要な存在である。
168 アンドレ・シトロエン公園
シトロエン公園はジャヴェル駅に近く、パリのように圧倒的に土地に対する需要が高い大都市においては、ビジネス的には喉から手が出るほど欲しい、幾らお金を出しても買いたい、と思う企業がいくらでもいたであろう。それを敢えて、そのような商業的な土地利用をせずに、公園として広く人々が活用できる公共空間として整備をした。しかも、そのセールスポイントは広大なる芝生である。それはパリ市民が求めていた空間を提供しただけでなく、パリの都市の魅力をさらに高めることにも成功した。それこそが都市経営であり、しっかりとした土地利用計画であると思われる。
169 ジュビリー・ウォーク(Jubilee Walk)
ジュビリー・ウォークは、シンガポールの建国50周年を祝して整備された延長8キロメートルの歩道である。この歩道は、フォート・カニングの丘、シンガポール川、行政地区、マリーナ・ベイといったシンガポールの過去、現在、将来の物語を象徴するような23のランドマークを結んでおり、ここを歩くことでシンガポールという都市国家を形成した人々やコミュニティの営みが理解でき、その都市形成の歴史を学習できるように意図されている。
イメージが弱い都市や、インバウンド観光客が増えてその動線を誘導する必要性がある都市などは是非とも参考にすべき好事例であると考えられる。
170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業
バーリは治安が決してよいとは言えない。治安がよくないと人々は公共空間に不安を覚え、あまり近寄らなくなる。公共空間の魅力をつくりだすのは、そこに多くの人が滞在していることが必要条件である。そのため、デカロ市長は、この「バーリの居間」と呼ばれる中心街路に人が安心して、そして快適に過ごせるための仕掛けをつくりあげた。ジェイン・ジェイコブスが名著『アメリカ大都市の死と生』で指摘しているように、人が来ることによって、その公共空間はより安全になるのだ。
取材・構成
服部圭郎 龍谷大学政策学部教授
制作・配信
公益財団法人ハイライフ研究所
■都市の鍼治療 データベース
https://www.hilife.or.jp/cities
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