クリチバのジャイメ・レルネル元市長は、都市が抱える問題を手っ取り早く解決するべき方法論として「都市の鍼治療」を提唱しています。
多くの課題に直面する都市は、さながら病人のようです。そして、都市の鍼治療とは、その都市の病を根本的に治すことは難しいけれども、効果的に「鍼療法のように治す」ことは可能であるという考え方にもとづいた方法論です。
本データベースは、このレルネル元市長の「都市の鍼治療」という考えにのっとり、内外の「都市の鍼治療」事例をシリーズで紹介していきます。
161 ジュビリー橋
シンガポールのシンボルであるマーライオンがあるシンガポール川の河口は、エスプラネード橋でマーライオン公園と対岸のエスプラネード劇場とが結ばれていた。そこに、新たにこの橋と平行するように2015年につくられたのが歩行者専用橋であるジュビリー橋である。ジュビリー橋ができたことで、そのアクセス環境も向上し、魅力は大きく増したと考えられる。また、現在シンガポールで最も有名な観光施設ともなったマリーナ・ベイ・サウンズも橋からは、その見事な姿がレンズに綺麗に収まる。周囲の環境をも改善させるような本プロジェクトは、まさに「都市の鍼治療」としてふさわしい。さすがリー・クアンユーのアイデアでつくられただけあって、素晴らしく諸問題をこれによって解決している。
162 シンガポール中心市街地照明マスタープラン
ブラジル・パラナ州の州都であるクリチバ市は、効率的でユニークなバスの運行システムで知られている。赤い3連節の長いバスが市内の専用レーンを颯爽と走り、チューブ状の未来的なデザインのバス停留所では、バスが到着するたびに自動踏み板が降り、短い停車時間で乗客が乗り降りを完了すると速やかに走り去っていく。クリチバのバス・システムは、コロンビアのボゴタ、インドネシアのジャカルタ、韓国のソウルなどで模倣され、クリチバ・モデルとでも呼ぶべき効率的なシステムを実現している。
163 サントスの珈琲博物館
サンパウロから70キロメートルほど離れている港町サントスは、珈琲の出荷港として20世紀前半には大変栄えていた。1922年にそこにつくられた珈琲取引所の建物はサントス市内でも、最も華美な建物として捉えられていた。この珈琲取引所を珈琲博物館にしたことで、サントス市は由緒ある歴史的建築物を有効に活用することに成功し、サントスという都市のアイデンティティでもあった珈琲の博物館というアーカイブ施設をつくることに成功し、さらには貴重な都市観光資源をつくることにも成功した。
164 だんだんテラス
京都府の南西部にある八幡市の男山団地に、関西大学の学生達が常駐して、コミュニティを再生するために活動している拠点「だんだんテラス」がある。だんだんテラスは、高齢化・少子化が進み、人口も減少し、空き家も増え、栄養失調で徐々に体力が衰えていくような状況にある団地の再生を考える大学の研究・活動拠点である。そこでは、団地というコミュニティの問題と真摯に取り組み、しかし、背伸びをせずに、自分達ができる範囲で力になれるところは支援しようという学生達の情熱が集約された場所でもある。
165 ハガ地区の街並み保全
イエテボリは歴史が浅い都市である。そのために、その都市のアイデンティティも歴史がある諸都市に比べると弱い。そのような中、数少ないイエテボリ特有の建築物である郡庁舎様式の建物をしっかりと集積した形で保全することに成功したハガ地区は、イエテボリのアイデンティティを具現化できる貴重な地区となり、その結果、多くの小売店舗が集積しており、歩行者中心の人が溢れる魅力的な都市空間となっている。ここは、フィカとスウェーデン人が呼ぶ喫茶店が多くある。
取材・構成
服部圭郎 龍谷大学政策学部教授
制作・配信
公益財団法人ハイライフ研究所
■都市の鍼治療 データベース
https://www.hilife.or.jp/cities
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