クリチバのジャイメ・レルネル元市長は、都市が抱える問題を手っ取り早く解決するべき方法論として「都市の鍼治療」を提唱しています。
多くの課題に直面する都市は、さながら病人のようです。そして、都市の鍼治療とは、その都市の病を根本的に治すことは難しいけれども、効果的に「鍼療法のように治す」ことは可能であるという考え方にもとづいた方法論です。
本データベースは、このレルネル元市長の「都市の鍼治療」という考えにのっとり、内外の「都市の鍼治療」事例をシリーズで紹介していきます。
126 オスロのオペラハウス
筆者は、取材のためにオスロ市を滞在中、3回ほどこのオペラハウスを訪れたが、昼夜を問わず常に人で溢れていた。オペラを観劇しない人々もここを訪れているのである。オペラハウスという公共施設を、単にオペラを市民に提供するというだけでなく、その建物自体を広場として広く人々に開放することに成功したのである。そのような発想は、都市の本質をしっかりと理解したものでなければ思いつかない提案であろう。
127 下北沢カレーフェスティバル
まず、その始めたきっかけがいい。思いつきで仲間内でやってみたら楽しかったので、街レベルでやってしまおうという、「街を自らが楽しもう」という街の人の意識。さらには、それにIT技術を活用しようという、新しいものに挑戦する創造性。そして、そのような企画に乗っかる店舗群の腰の軽さ。このカレーフェスティバルに参加している店舗数は149軒であるが、これは下北沢にあるカレー店の数よりも多い。つまり、カレー屋ではない店もこのカレーフェスティバルに参加して、臨時のカレーを提供している。この柔軟性が楽しい。
128 おかげ横丁
おかげ横丁を訪れて感じるのは、ここの魅力は伊勢という地域の文化をコンセプトとして徹底させていることにあると感じる。伊勢でしかあり得ない、伊勢らしい街並みの中、伊勢の食材でつくった料理に舌鼓を打つ。伊勢うどんは、伊勢以外で食べたいとは思わないかもしれないが、伊勢では食べたい。そのような機会をしっかりと提供できてこそ、その地域を活かした街づくりが初めて可能になるのではないか。いろいろな可能性を感じさせてくれる民間企業による素晴らしい都市の鍼治療事例であると考えられる。
129 サン・ホップ公園
この公園の特筆すべきところは幾つかあるが、まずはこの小さい空間をランドスケープ・デザインによって最大限に活かしていることだ。真ん中にちょっとした土盛りをすることで空間を文節化し、小さい中にも変化をもたらしつつ、一方でベンチはおどろくほど長い弧状のものにするなどしてスケール感を演出している。アイスクリーム屋が1980年代に閉店した後、この空間は18番街を右折するためのレーンが設置されていた。このレーンの空間を市役所が潰すと判断したことで、この豊かな公共空間が生まれた。
130 ヴァルカン地区再開発
オスロの北部にあるヴァルカン地区は19世紀頃にアーキャスエルヴァ川の西側に開発された工業地区であった。その後、1960年頃に工場は郊外部に移転し、この地区は塀で被われ、市民はここに入ることができないようになってしまった。跡地は雑草が生い茂り、オスロ市内でも最もイメージの悪い地区の一つとなってしまった。しかし、この地区は2004年にAspelin Ramm、Anthon B Nilsen Property Developersというデベロッパー会社によって、ほぼ100%民間主体でミックスドユース地区へと再開発され、オスロ市内でも有数のアーバニティ溢れる人気のスポットへと変貌している。
取材・構成
服部圭郎 明治学院大学経済学部教授
制作・配信
公益財団法人ハイライフ研究所
■都市の鍼治療 データベース
http://www.hilife.or.jp/cities
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