クリチバのジャイメ・レルネル元市長は、都市が抱える問題を手っ取り早く解決するべき方法論として「都市の鍼治療」を提唱しています。
多くの課題に直面する都市は、さながら病人のようです。そして、都市の鍼治療とは、その都市の病を根本的に治すことは難しいけれども、効果的に「鍼療法のように治す」ことは可能であるという考え方にもとづいた方法論です。
本データベースは、このレルネル元市長の「都市の鍼治療」という考えにのっとり、内外の「都市の鍼治療」事例をシリーズで紹介していきます。
086 セオドア・シュトローム通りの減築プロジェクト(Dismantling Project of Theodor Strom Strasse)
ザクセンドルフ・マドローには、これまで3度訪れている。2006年、2010年、2016年である。2006年に訪れた時は、セオドア・シュトローム通り沿いの高層棟の撤去を行っていた。大きなクレーンで建物を壊していく様子は凄まじい迫力であった。ドイツはやることが過激だな、という印象を受けたことを覚えている。さて、しかし、その後、訪れるたびにザクセンドルフ・マドローのまちはよくなっていると感じる。人口は依然として減少してはいるのだが、住環境は改善され、人々の表情も明るくなっているように見受けられる。
087 郡上八幡の空き家プロジェクト
まず空き家所有者は空き家を10年間低額で公社に貸し付けをする。そして、公社は空き家を10年間借り受け、空き家を改修し、維持管理業務をし、入居者募集をして、選定、入居手続き業務をする。加えて、家賃徴収や苦情、トラブル対応もする。空き家所有者は税金、火災保険などは負担をするが、事務的な手間は公社がほとんど対応してくれる。
088 ジズコフ駅(Zizkov Station)の再生プロジェクト
無骨で巨大な産業建築の中に、お洒落なお花畑やバーなどがある。私が訪れた時は、ランドスケープの展示がされていたが、それを眺めながらゆったりと産業遺産の巨大な構造物の中でビールを飲むのは、なかなかの空間体験である。廃墟好きにはたまらないであろう。
089 ヴィレッジ・ホームズ
ヴィレッジ・ホームズで印象に残るのは、そこで生活している人々が、周辺の自然環境と共生していることが感覚的に理解できることである。まず、子供達が子供のように外で遊んでいる。住宅地が子供達を社会化させるうえで、しっかりとその役割を果たしている。住宅の市有地を削って、その分、公有地を増やした。その最大の成果であるローン(芝生)のゆとりある空間がつくりあげる豊かさ。コミュニティの豊かさは、この公共空間の質がもたらすのである、ということをヴィレッジ・ホームズに来ると改めて理解する。
090 デッサウ「赤い糸」
デッサウでは、住宅市場の供給過剰に対応するために不要な建物を撤去した跡地を、「図」ではなくむしろ「地」に注目した都市像として提示している。そして、この「地」を空間的にネットワーク化し、新しく創出されたランドスケープを人々に認識してもらうために、それらを「赤い糸」で繋ぐことにした。空間への理解を促すことで、人々は将来の都市像を認識し、またコミュニティがそのイメージを共有することで、初めて将来への対話が生まれる。
取材・構成
服部圭郎 明治学院大学経済学部教授
制作・配信
公益財団法人ハイライフ研究所
■都市の鍼治療 データベース
http://www.hilife.or.jp/cities
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