テリトーリオ

vol.2

「都心から一番近い森のまち」 流山

千葉県北西部に位置する流山市は、都心へのアクセスの良さと自然の豊かさが魅力の街です。

2016 ~ 2021 年の6 年連続で人口増加率が全国772 市中1位と、流山おおたかの森は子育て世帯から大注目の人気エリアであり、最も注目されている都市近郊のまちの1 つといっても良いでしょう。

そんな流山市がもつテリトーリオを探っていきます。

流山市 = 子育ての街?

ここ数年でよく耳にするようになった「流山」。私たちが持つイメージは、子育てがしやすい、新しくてきれいなまち、若い世代が多い、活気に溢れている、などです。

しかし、そのような印象を持つようになったのもここ十数年の間であり、さらには流山市全体の一部でしかありません。またそのような急成長を遂げた流山のかつての姿はどのようなものだったのでしょうか。

そんなまちの実態と歴史を「テリトーリオ」≒「ノンスケールの全体性」というテーマ(人や建築以外も調査対象に含め捉える)を元に、第三者的な目線を持つ我々学生が調査を行います。

まずは流山市を中心に活動している方々にお話を伺うことから始めました。

調査を行ったみちのり

1つ目の取材先は、machiminの手塚純子さん。
machiminは、流山駅改札横にある旧タクシー車庫をリノベーションした建物で、地域に根付いたスペースとして開放され、世代や性別、職業問わず多様な人が集まるのが特徴です。
今回はmachiminのオーナーである手塚純子さんにニーズの異なる人が集まるまち、流山でまちをどう立て直していくかといった活動についてお話を伺いました。

人がよりよくまちで生きて
いくために「みんなで作る」

会社勤めの経験を活かしたまちの立て直しとしての場作り。

手塚さんは2018年まで会社勤めで、企画や営業、人事などを経験されていました。組織の戦略を推進しビジョンを提示し活性化させてV字回復するきっかけを考える、また、組織に合う人の採用から育成まで行っていたそうです。そんなある時まちを見た時、「まちも企業と同じではないか」と気がついたそうです。現在の流山はタイプの異なる人々が集まっているまちであり、地域としてのまとまりがまだ確立されていない今、手塚さんはこのまちをどのようにまとめていくかと考えたことがmachimin設立のきっかけとしてあったそうです。

machiminが大切にしていること。

machiminは「みんなでつくる」ことを大切にされています。まちのみんなのそれぞれ得意なもの、ことが集まることでこの場所は作られています。手塚さんが目指すのはまちの人々が主体的に何かをしてみたいという気持ちを自分の力で実現することができる人を増やすことだそうです。そのための場としてのmachiminは「個人がやりたいことを叶えられる空気を作る」ことを大切にしているそうです。

machiminにはどのような人が訪れるのでしょうか。

machiminの店番はまちの様々な人によって行われます。おばあちゃんやおじいちゃん、専業主婦や育休中の父親、小学生…。(私たちが取材に伺わせていただいた時はちょうどおばあちゃんが店番をされていた時でした)年齢も、職業も、性別も限定されず様々な人が集まるこの場所。手塚さんはmachiminという場所は偶発的な出会いが生まれる場所とおっしゃっており、実際にmachiminで出会った人が話をして、その輪が広がっていく、そのプロセスで予想もできない出会いがあることが面白いそうです。

machiminと流山のこれから。

machiminはこれからもまちの人々が活動したいと思うことを受け入れる場、そして個人の生き方のロールモデルを増やしていくことを続けていくそうです。
まちの人々の得意なこと、楽しいと思うことをまちのために工夫して開くことで他の人に知ってもらうことで偶発的な出会いを生み、machiminに依存しなくともその活動が広がり誰かのロールモデルになってまちに還元されていく、そしてまちがより良くなっていくことを目指したいとのことでした。

「まちの人々がしたいことを受け入れる場にしたい。」

「machiminで偶発的な出会いを経験してもらいたい。」

「結果としてまちの人の主体性を引き出すことができる場にしたい。」

同日 machimin にて

2つ目の取材先は、Nまちデザインの西山直勝さんと飯田良瑛さん。
Nまちデザインは、流山市役所に勤務する傍ら、任意団体として流山の公共空間を活用したマーケットを企画・運営し、地域活性化とエリア価値の向上を行っている任意団体です。現在は5人のメンバーで活動されていて、今回は西山直勝さんと飯田良瑛さんのお二人にNまちデザインの流山での活動についてお話を伺いました。

きっかけと始まりのマーケット

Nまちデザインの発足は「仕事の枠を超えて、面白いことをやりたい」という想いから始まりました。その想いに共感したメンバーが集まり、現在流山おおたかの森駅の北口周辺の価値を高めるため、2023年の2月から北口広場でNorth SQUARE Marketを開催しています。
このマーケットは「大人のマーケット」をコンセプトにしていて、ショッピングセンターなどがある南口広場はファミリー層をターゲットにしたイベントが多いため、そこと差別化する意味で、落ち着いた雰囲気のある大人を意識した店を中心に出展依頼を行っています。

流山の市民性、新しいことを受け入れて、応援してくれる人が多い。

流山市の市民性は、地域によって異なるようです。おおたかの森エリアは比較的新しい住宅地で、共働き子育て世代を対象に開発されたため、若い世代が多く、新しいことを受け入れやすい傾向があります。一方、江戸川台のような古くからある地域は高齢化が進んでおり、変化を受け入れにくい面もあるようです。しかし、市全体としては市民自治条例があり、市民の声を聞く体制が整っているため、意見を言える活発な市民が多いとのこと。
また、本町エリアは歴史のある地域で、白みりんの発祥地としても知られています。観光資源としては利根運河の自然景観がありますが、市外からの人を呼び寄せるというよりは、近隣の人を呼び込むマイクロツーリズムの場所として位置づけています。

マーケットの開催が目的ではなく、行政視点での官民連携を促進させたい。

マーケットをやること自体が目的ではなく、公共空間を活用して地域の魅力を発信し、エリア価値の向上を目指している。地域にいるいろいろな面白いプレーヤーと繋がっていこうというのが本来の目的。将来的には、主催者(Nまちデザイン)が不在でも自走できるような仕組みづくりを目指しているようです。

また、北口広場から周辺にまで波及させて、おおたかの森のエリア以外でも同様の活動を行い流山市全体のエリア価値向上につなげていきたいとのことです。
公務員としての経験と視点を活かしながら、Nまちデザインの活動を通じて、地域の活性化や新しいことに挑戦している、お二人に今後も注目していきたいです。

に会いに来るマーケットを目指したい。」

「地域にいるいろんな面白いプレーヤーと繋がりたい。

エリア全体の価値を上げる。北口広場から周辺に波及させられるようにしたい。」

少し日をまたいで

3つ目の取材先は、古舎カフェ 灯環のオーナー、秋元 由美子さん。 流山で育ったオーナーさんは自分の育った街に町おこし的にかかわりながら自分の夢をかなえたいという思いから、歴史ある蔵を生まれ変わらせる補助金制度ができるキッカケにもなったであろう一言をあげた方です。現在は、古舎カフェ 灯環を経営しており、市と連携しながら活動を行っています。
今回は、そんな秋元さんの現在に至るまでの活動をお伺いしました。

「地元である流山で町おこしをしながら古民家カフェをやりたい。」

古民家カフェから町おこし

灯環では流山で名産のみりんを使った料理やスイーツを扱っています。秋元さんは流山という地でお店を開くということで糀マイスターの資格を取得しました。
市と連携し、流山名産のみりんを発信することも行っています。
その他の食材も流山を中心に近隣の市から仕入れて使っており、新鮮かつその地域ならではの味が楽しめます。
カフェには展示スペースもあり、流山在住イラストレーターの村西恵津さんの画をはじめ、流山に限らず手仕事にこだわった様々な作品が店内を彩っています。
古民家カフェを通じて歴史ある建物がコミュニティを活性化させる土台として生まれ変わっています。

2店舗目となる「古舎カフェ 灯環」

もともと古民家カフェをやりたかった秋元さん。想いはあったもののつてがなく、実現できずにいました。 2010年ごろにとある古民家カフェにお客さんとして訪れ思いを伝えたところ、市で行っているイベントに参加させていただいたそうです。そこで市とのつながりができ、現在の「蔵ごころ」、「古舎カフェ 灯環」の2つの古民家を生まれ変わらせてきました。
現在、「古舎カフェ 灯環」として生まれ変わった蔵は、歴史をさかのぼると呉服屋さんの蔵でした。それを布団屋さんが譲り受け、お持物としてあった蔵を秋元さんが譲り受け、今に至ります。歴史ある蔵が現代において素敵な空間へと生まれ変わり、お店を始めてから文化財にもなりました。

夢から町おこしへ

現在、流山市ではいくつもの古民家カフェやギャラリーがあります。それらは店舗のオープンにあたって流山市からの補助金制度があるおかげで生まれ変わり、歴史ある町としての雰囲気を残しています。秋元さんが想いを伝えた市への一声は補助金制度施行の一要因となったに違いありません。「古民家カフェをやりたい」という当時の秋元の熱い想いが後の街の文化財を保存し、活用する術につながり、今では町としての価値も上がっています。

4つ目の取材先は、蔵ごころの小園直史さん。
蔵ごころは、江戸時代に建造され1898年に移築された国登録有形文化財「笹屋土蔵」をリノベーションした建物であり、小園さんは現在この文化財を守りながら、流山の食材と出身地である鹿児島の食材を使った料理を提供しています。
今回は蔵ごころの店主である小園直史さんに食を通して街の人とのコミュニティーを作っていくための活動についてお話を伺いました。

「新しい居酒屋の形に挑戦したい。」

「流山本町の街らしさを活かした居場所としたい。」

いつでも誰でもいつまでもいられる場としたい。

コロナ禍を経て、新しい居酒屋の形としての挑戦。

小園さんは元々、南流山で「酒処皓太」という居酒屋を経営していました。しかしコロナ禍で集客が減り、大きな打撃を受けたため、周りとは違う居酒屋だけではないところに挑戦したいと思い、姉妹店として昼はランチ、夜は居酒屋のお店をここで始めたそうです。元々ここは灯環さんがリノベーションをしていて、その貸出期間が終わったため、そこを小園さんがもらい受ける形で始めたとのこと。地元の人たちに敷居を高く感じてもらわずに来てもらえるような場所にすることをコンセプトとしており、そのためランチは時間制を取らずにオープンから最後までいてもらってもいいような、ゆっくりとした時間を楽しんでもらえるような仕組みとしたそうです。

蔵のポテンシャルを活かした温かみのある空間。

蔵を選んだ理由は三つあるそうです。一つ目に外部の騒音を気にせずに静かにいられること。蔵は土壁でできており、壁厚があるので音を通さないのが大きな特徴であり、そのため日中であっても街の喧騒から離れた静かな場を提供できるそうです。二つ目に年中快適に過ごせる空間であること。土壁は熱を通しにくい特徴を持つため、夏は涼しく、冬は暖かい空間となり、利用者が快適に過ごせる空間となるそうです。そして三つ目にリノベーションがしやすいこと。国の文化財は市や県の文化財とは違い、リノベーションがしやすいそうです。そのため飲食店を始めるには良い環境であるそうです。

街の一員として活動していくために心がけていること。

まず地元活動や地域活動には率先して入るようにしたそうです。小園さんは元々地域と関わることが好きだったため、少しずつ顔見知りの関係を作りながら地域と関わっていったとのこと。よく田舎の人が、全然違うところから来た畑違いの人が勝手にお店をやっ てるとなると、商売を応援してくれないイメージがあるが、地元に住んで、地元の団体に入っていると、 そういったところは優しく出迎えてくれるそうです。

ゆっくりとした時間の流れる街。少しの不便さが街らしさを作る。

流山本町は少し不便な部分もありますが、そのゆったりとした時間の流れがとても良いとのこと。また、何かあった時でも身近に助けてくれる人がたくさんいるそうです。

街は常に変わり続けているが、その流れに沿って新しいものに作り変えるとかではなく、ここの町並みはここで残したいなっていうところがあるので、この町並みに合わせたまちづくりをしてほしいとのことでした。

実際に流山のマーケットに参加!

そして新たな出会いが・・・

5つ目の取材先は、森田農園の森田昌さん。
森田農園さんは江戸時代から300年続く農園であり、独自にブレンドした自家製堆肥を使って様々な野菜を栽培している農園です。季節の野菜を年間約80品目取り扱っており、南流山駅前を中心にマルシェでお客さんに野菜を販売しています。
今回はその代表である森田昌さんに森田農園の活動についてお話を伺いました。

ヒトと会話しながら
野菜を販売すること

地域活動のきっかけ

森田さんが代表になり農家を始めたころは駅前で自分の売り場を作ったり、人とコミュニケーションをとりながらやるような売り方をしていました。その延長で依頼が来たり、こういう野菜を出展してくれないですかなど相談を受け、それが自然と流山を中心とした地域活動に関わるものとなっていきました。
現在では農業としての活動と、「つちまる」という地域活動の部門の二つに分かれて活動を行っています。最近では神社でD Jを呼んだり、和太鼓とか、よさこいをおこなったり、プロジェクションマッピングなど幅広い活動をしています。

地域の一員としての繋がりと関わり方

森田農園さんは意外にも農業関係以外のつながりが多く、前回インタビューをしたNまちデザインさんとも関わりがあります。最初は南流山でマルシェをしていたときに無断で活動していると思われ市役所の人が来たが、むしろマルシェを展開していきたいという話になり、それがNまちデザインさんとの出会いだったそうです。最初は江戸川台駅から始まって、そこから南流山、おおたかの森と発展していきました。
マルシェをするとお客さんとの会話が増えて、地域の人柄も見えてきたそうです。流山の人は地元愛が強く、外から来た人も流山が好き。だからお客さんもいい人が多い。元々流山にいた人は急速に変わっていく街をおしむ人もいるみたいです。
また、その繋がりを広げるために、流山青年会議所という団体に所属しており、そこで知り合った人たちとイベントを企画して地域活動を行っています。

今力を入れていること、目指していること

まずは『野菜を適正値段で販売できるような仕組み作りをしたいです。今は野菜をセット販売することで、季節に適した野菜をお客さんの声や料理に合わせるようにしています。』
その他にも、『農園の土地の空き地にバーベキュー場を作って、地域との関わりを増やして行きたいと考えています。流山を一望できる素敵な場所です。』
他にもクラウドファンディングでお金を集めて建物をつくることも考えているそうです。
その繋がりを活かして、今まではマルシェを開いて自分がお客さんに出向いていたのを、今度は『人に訪れて貰えるような(体験型の)農園にしたいと考えています。』

「農業だけでなく、地域に対して幅広い活動をしたい。」

「流山本町のお客さんと会話しながら地域を作り上げていく。」

「人に来てもらえるような農園にしたい。」

取材をご協力いただいた皆様
ありがとうございました!

流山で見えてきたテリトーリオ

都市近郊ということもあり、今までのテリトーリオ研究の中で一番多く現地を訪れ、多くの方々にお話を聞くことができました。人伝いに点と点が繋がり、また交わり、一本の線では作り上げられない、メッシュワークのような関係性が見えてきました。

都市の観点で見つめていくと、研究のきっかけである流山おおたかの森を中心とした「子育ての街」という固定概念が変容していき、調査を進めていくと街の歴史が異なることが見えてきました。

大きく三つの構成として

  • 令和・平成に築かれた
    「流山・おおたかの森」
  • 江戸からの街並みが続く
    「流山本町」
  • 昭和に栄えた商店街の名残を持つ
    「江戸川台」

このように同じ市内でも急速に成長している街と昔ながらの景色を継承している街がかなり近い位置で共存しているという事実が見えてきました。
そしてその三つの街を跨ぐように人々の活動や人以外のモノの行き交いが見られました。それこそが流山のテリトーリオなのではないかと私たちは考えました。

ありがたいことに研究期間を超えた時期でのお誘いや、ワークショップへの参加なども決まっています。今年度で完結しないほど、豊かな人のつながりを持つこの流山を今後も小堀研究室のテリトーリオ研究で迫っていきたいと思います。

次回は都市近郊から少し離れた福井県を調査した記事を掲載する予定です。
昨年に引き続きの調査にはなりますが、昨年以上により根付いた関係を探るべくワークショップに参加、開催したりと新たな取り組みも試しながらテリトーリオを調査しています。
ぜひお楽しみにしてください。

流山テリトーリオ
調査メンバー紹介