テリトーリオ

vol.1

福井に調査に向かうにあたって、私たちに「テリトーリオ」というキーワードが与えられました。
法政大学で建築学生として耳にしていた「テリトーリオ」
実際のテリトーリオ研究について実践的に学ぶ機会をこの度初めていただきました。
「テリトーリオ」という言葉の意味から、
文献から学び取れる法政大学としての「テリトーリオ」、私たちが受け取った「テリトーリオ」をここにまとめたいと思います。

「イタリア語」とテリトーリオ

「テリトーリオ」はイタリア語で地域を表す言葉です。具体的には

「都市と周辺の田園や農村と
密接につながり、
支え合って共通の経済・文化の
アイデンティティを持ち、個性
を発揮してきたそのまとまり」

という意味をもって使われているようです。

[ 地域 ] という意味を指すイタリア語を並べると
regione / area / zona / comunita /locate/quartiere/territorio/parte,,,
といろいろあるのですが、それぞれ少しずつ示す範囲や大きさが観点によって異なっており、そのなかでterritorio は「個性を発揮するかたまり」、つまり「縄張り」という言葉に日本では言い表せそうです。
また、テリトーリオアプローチといって、
その共通の経済・文化のアイデンティティを核とする地域ブランドを形成するという地域創生の方法を提唱しています。

陣内秀信先生とテリトーリオ

陣内秀信先生は法政大学の研究室にて、学生と共にテリトーリオ研究に励まれていました。
その陣内先生が「テリトーリオ」と出会ったきっかけは留学だそうです。
イタリア留学で「建築類型学」、建物の形自体から街の歴史を探る手法を学ばれました。

日本に帰国され、「建築類型学」を日本の街に適用しようとすることには、残念ながら限界がありました。
そのなかで調査対象は、建築から “都市や田園” に向いていきます。これには田園地域の過疎化などが問題視され始めたという時代の背景もありました。
戦後、高度経済成長期の1950~1960年代から1980年代にかけて、失われてしまった「地域ごとに成り立っていた経済の循環サイクル、文化発信の機能」を現代の文脈で立て直す必要があり、田園の持つ価値を評価し、都市と田園との繋がりを復権させる方法を学ぶという目標を持つようになりました。

そこで再度ベネチアに向かい、手に入れた「テリトーリオ」というキーワードと「田園風景」を軸に、イタリアの小さな町がどういう成り立ちで、どんな空間構造をもつのか、さらには農業とどのような関係を持つのかを解き明かすための調査を行いました。

こういった経緯で、陣内先生がされてきた「都市を読む」手法を「テリトーリオ」と呼び、法政大学での研究の題材として提唱されていました。

建築史への挑戦-住居から都市、
そしてテリトーリオへ

「建築史への挑戦-住居から都市、そしてテリトーリオへ」(陣内秀信・高村雅彦編著:鹿島出版会,2019)では、8章にわたって、陣内先生の「都市を見ること」に呼応して、陣内先生に関わる研究者たちとの対談が綴られています。専門家それぞれの目線からの都市の見方が述べられており、多くの示唆が得られました。
その中でも特に、「テリトーリオ」について分かりやすく説明されているという部分についてご紹介します。(第8章 p406より引用)

『個人、共同体、自然のダイアグラムです。至極当たり前の図で、個人は共同体に包含され、そして共同体は自然に包含されています。西洋における都市という概念は自然環境から離脱した人工環境をつくるものだと思います。都市は自然と対抗する概念です。
そして資本主義の進行のなかで個人は共同体から切り離され、社会のなかで孤立していきます。これが現代社会です。
この切り離された個人、共同体そして自然を、再び接続し着陸させる空間構造を提案することが求められているのではないかと考えています。この自然に接続し、着陸した図こそテリトーリオという概念なのではないかと私は思います。』

実は読後に、研究室内において「結局、テリトーリオってなんなのか」について議論しましたが、それぞれが印象に残る章も異なり、一言でまとめる事が難しかったです。
研究者の中においても「テリトーリオ」についての認識がそれぞれ違っており、必ずしもひとつの関係性の在り方を示すものではないのだという気づきを得る事ができました。

「私たち」とテリトーリオ

参考となる文献を読んだり、話し合ったりする前の私たちのテリトーリオの認識は、

「自然 (土地の高低差や産材) が地域を
構成する大前提として存在していて、
その自然の変化や時代の技術の進歩に
よる建物の変化の様子を追うことで
その街の成り立ちや歴史を解析する
研究方法の名前」

というものでした。

私たちの指導教授である小堀哲夫先生がお仕事で関わった芦原温泉の旅館である『光風湯圃べにや』さんも、小堀先生とお話をするなかで、
「これまで旅館でしてきた周辺業者さんとの関係の築き方が、テリトーリオであると気づいた」とおっしゃっています。

みんなそれぞれ自由にテリトーリオを解釈していて、それならば福井で地域貢献的で、かつクリエイティブな活動をされている方にも、独自のテリトーリオについての考え方があるのではないかと考えるようになりました。

小堀先生からご紹介をいただき、福井県において地域との繋がりをベースに、クリエイティブな活動を行っている方として、新山直広さん(合同会社ツギ)内田裕規さん(株式會社ヒュージ)のお二人に福井のまちのあり方やその未来について、取材をさせていただくことにしました。