西村先生の研究結果から、就職氷河期世代は社会に出た時に就職難を経験しただけでなく、年齢を重ねるにしたがって自立した生活を成立させるのが難しくなっている現状が示唆されました。また、日本は元々、年齢が上がるにつれ格差が広がる傾向にありましたが、「就職氷河期以降の若年層では同世代間格差が広がっている」とする大竹文雄先生の研究(2005,『日本の不平等 格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社)への言及もありました。
生活が不安定になっている就職氷河期世代への支援策として、政府は今、非正規雇用の正規雇用化を打ち出しています。しかし、西村先生が行った就職氷河期世代へのグループインタビューでは、非正規で働く人から「正社員になりたい」という声は聞こえてこなかったと言います。これは重要なポイントだと思います。
つまり、現在の「正社員」「非正社員」の定義や枠組みの中で、単純に「非正社員」を「正社員」にしようとしても、なりたい人はそれほどいるわけではない、ということです。もちろん生活を安定させたい、スキルを向上させたいといった願望はあるけれども、正社員になると働く場所や時間が決められて、柔軟な働き方ができなくなってしまう。それよりも、自分の専門性を活かしながら、好きな時間に働ける非正規のほうが育児や介護をしながら働きやすい。実際、ITなどの専門スキルを持った若者がインターネットを使って収入を得るケースもあり、そのような方法で収入を得られるのであれば、正社員になることに必ずしも興味を示さない若者がいる、という話でした。
西村先生は、「『非正規の正規雇用化』を推し進めるだけでいいのか、正社員のあり方そのものを問い直す必要があるのではないか」と指摘されているわけですが、この議論は非常に新鮮かつ重要なものだと思います。柔軟な働き方のニーズに合っているのはむしろ非正規なのではないか、と考えることもできるわけです。ですから、正社員という働き方を選ばず、非正規の働き方を支持する人も多いのでしょう。