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2024年度“高齢者の食事情”最新レポート
第3回 高齢者の食は「ぜいたくな食」
“想像以上にお金をかけている高齢者の食事情”

2024年度の「買い物から見えるくらし -食の購買行動定点観測-」は、高齢者の食に関する行動や意識、またその背景を食品スーパーの購買データを活用して洞察していきます。そのうえで「高齢者の暮らしは食が真ん中」という仮説のもとに高齢者の食の特徴を探っています。
第三回目となる今回は、高齢者の高価格な食材の購入が多い傾向を「ぜいたくな食」として取り上げ、具体的な購買行動の特徴を見ていきます。
購買データに関しては、特に引用元の表示がない場合株式会社ショッパーインサイトの購買履歴データを用い、同社が保持する購買履歴データを本コンテンツ向けに独自の集計、加工を行い分析いたしました。

1.高齢者は食にお金をかけている !~ 30代・40代の約1.5倍の支出

 

まず、2023年の家計調査から、世帯主年齢別の食料支出を世帯人数で割り一人当たりの食料支出額としたものを見てみます。

図表1 世帯主年齢別世帯一人当たりの食料支出額(家計調査2023:総務省)

図表1 世帯主年齢別世帯一人当たりの食料支出額(家計調査2023:総務省)

これを見ると、食料支出額は高齢者が高く、高齢者が「ぜいたくな食」を行っているということが読み取れます。この食料支出額には外食の支出も含まれますが、食料支出額を「外食」と「それ以外」に分けると以下のようになります(図表2)。

 

図表2 世帯主年齢別世帯一人当たりの食料支出の内外食支出(家計調査2023:総務省)

図表2 世帯主年齢別世帯一人当たりの食料支出の内外食支出(家計調査2023:総務省)

食料支出のうち「外食」の支出は高齢になるほど減っていくので、外食を除いた食料支出額で見ると高齢者の支出額が他世代に比べて更に高くなり、高齢者は家庭における内食にお金を使っていることが分かります。外食よりも家で「ぜいたくな食」を楽しむことが高齢者の特徴のようです。

2.高齢者は「和牛」を好む!~輸入牛より国産牛、国産牛より和牛を選ぶ

 

次に、食のぜいたくさが購買データに反映されやすい「精肉」カテゴリーを対象に、高齢者の「ぜいたくな食」の実態を見てみます。「精肉」の主要なカテゴリーとして「牛肉」「豚肉」「鶏肉」がありますが、この3カテゴリーの構成比を見てみます(図表3)

図表3 「牛肉」「豚肉」「鶏肉」の年齢層別金額PI値構成比(「ひき肉」除く。PI値:1000人当たり購入金額)

図表3 「牛肉」「豚肉」「鶏肉」の年齢層別金額PI値構成比(「ひき肉」除く。PI値:1000人当たり購入金額)

これを見ると高齢者、特に後期高齢者は全体平均に比べて「牛肉」の比率が高いことが分かります。
一般的に牛肉は他の精肉に比べて比較的にグラム単価が高く、高齢者が「ぜいたくな食」を楽しんでいることの一つの現れと言えるでしょう。
※図表3の比率に関連して、一般的に東日本のエリアでは豚肉が好まれる傾向であり、いっぽう西日本のエリアでは牛肉・鶏肉が好まれる傾向があるため、構成比に地域差は存在します。

 

次に「牛肉」をより細かい分類で全体と高齢者を比較して見てみます(図表4)。

図表4 牛肉カテゴリー別金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)

図表4 牛肉カテゴリー別金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)

「牛肉」の中で全体に比べて高齢者が良く買っているのは「和牛」次に「国産牛」となっています。
(ちなみに「和牛」は「黒毛」「褐毛」「無角」「日本短角種」の日本の在来種を基とした4品種を、「国産牛」は和牛に含まれない日本国内で3か月以上飼育された牛肉を指します)
反面、各種の輸入牛は全体に比べむしろ購入金額は少なく、高齢者は牛肉を好むと言うより和牛や国産牛を好むと言った方が正確そうです。これもやはりグラム単価は和牛が最も高く、国産牛がそれに次ぐ傾向はありますので、高齢者の「ぜいたくな食」の現れと言えるでしょう。
65-74才の前期高齢者と、75-89歳の後期高齢者を比べると、後期高齢者の方がより和牛、国産牛でプラスの差が大きく、逆に輸入牛はマイナスが大きい傾向が強くなり、よりぜいたく度が強くなっています。和牛の方が物理的に柔らかいので咀嚼力が下がっても食べやすいという要因もありそうですが、それを考慮しても「ぜいたくな食」と言えるでしょう。
そういえば私も以前に子供たちとスーパーに買い物に行ったとき、次男が和牛の並んだ棚の前で「お肉おいしそー」と言ってるところに長男が「だめだよ、それはおじいちゃんの家の牛肉なんだよ」と注意し、それを聞いた周りのお客さんが大笑いした、ということがありました。どうしてそう思ったのかは分かりませんが、高級な牛肉は高齢者が食べるもの、という認識を持っていたようです。

 

この「和牛」ですが実は季節性の強い商品で年末に売り上げが上がるカテゴリーです(図表5)

図表5 「和牛」「豪州産牛」カテゴリー別月次金額PI値(PI値:1000人当たり購入金額)

図表5 「和牛」「豪州産牛」カテゴリー別月次金額PI値(PI値:1000人当たり購入金額)

「豪州産牛」についてはそれほど季節変動がありませんが、「和牛」は12月に額が大きく伸びており、8月にも伸びがみられます。12月と8月…そうです「和牛」は帰省シーズンとの関連が強いカテゴリーなのです。高齢者の家に子供が帰省してくる際、ホストとなる高齢者が家族そろって食事を楽しむための食材が「和牛」のようですね。12月の「和牛」との同時購入は「白滝」「しいたけ」「長葱」「白菜」などが目立ち明らかにこの和牛は「すき焼き」として楽しまれているようです。久しぶりに家族で集まってすき焼きというのもぜいたくな時間で、つい財布の紐が緩みそうな機会だと思います。

 

同様に「豚肉」「鶏肉」もカテゴリーごとに全体と比較してみます(図表6)。

図表6 「豚肉」「鶏肉」カテゴリー別金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)

図表6 「豚肉」「鶏肉」カテゴリー別金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)

「豚肉」「鶏肉」では各カテゴリーで、全体に比べて高齢者の購入額が少なくなりますが、グラム単価が高めな「銘柄豚」「銘柄鳥」では高齢者の減少幅が少なく、グラム単価が低めな「輸入豚」「輸入鳥」では高齢者の購入金額は全体の半分程度まで少なくなっています。
高齢者は安心・安全という観点から国産品を選ぶ傾向が強く、それが反映されている面もあるとは思いますが、「国産牛」より「和牛」、「国産豚」より「銘柄豚」、「国産鳥」より「銘柄鳥」がより好まれていることは、国産品志向だけでなく、高価でもより美味しいものを食べたいという意識の現れではないか、と思われます。

3. 高齢者はぜいたく食ユーザー ~特に“後期高齢者”は贅沢食材の重要顧客

 

精肉以外でもぜいたく感のある食材を主観的にいくつかピックアップして、その購買データを全体と高齢者で比較したいと思います(図表7)。

図表7 各種ぜいたく食材高齢者の金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)

図表7 各種ぜいたく食材高齢者の金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)

青果、水産、惣菜から代表的なぜいたくカテゴリーを集めましたが、やはりどれも高齢者の購入金額は高くなっています。更に前期高齢者よりも後期高齢者の購入金額が一層高くなっており、松茸、メロン、桃、うなぎ蒲焼では全年齢平均より一人当たりで6割ほど沢山買っています。全年齢平均の中にも高齢者は含まれているので、後期高齢者と非高齢者を比較した場合、後期高齢者は倍以上買っているという結果になる可能性があります。
高齢者は「ぜいたくな食」を楽しんでいますが、それならば後期高齢者は「とてもぜいたくな食」を楽しんで
いるとも言えてしまうかもしれません。

 

 

今回は「高齢者の暮らしは食が真ん中」とした一つの要素として「ぜいたくな食」を取り上げ、食料支出や「ぜいたく」な食材の購買データを見てきました。
食料支出のデータから見ると、高齢者は一人当たり食料支出が高めなのですが、その中での外食の費用が少ないため、内食用の食材購入金額は他世代と比較して更に高く、食材の買い物にお金を使っています。
高齢者は精肉カテゴリーで見ると「牛肉」、その中でもグラム単価の高い「和牛」「国産牛」をよく買っています。これには年末等の帰省時のホストとして、イベント食としてのすき焼きを楽しむための和牛需要もありそうです。高齢者の「豚肉」「鶏肉」の購入金額は少なめですが、その中でも「銘柄肉」「国産肉」が相対的に高くなっています。
青果や鮮魚惣菜カテゴリーでもぜいたく食材は高齢者とりわけ後期高齢者に良く買われており、後期高齢者は「とてもぜいたくな食」を楽しんでいるようです。

意識として「高齢者の暮らしは食が真ん中」であれば、食への支出割合が高くなることは当然とも言えますが、高齢者は平均すれば所得こそ多くないものの、教育費や住宅ローンの支払いが少なく、貯蓄するよりも貯蓄を取り崩している場合が多いため、もちろん個人差はありますが食にお金を掛けられる状態にある人が多いですし、家族の帰省など財布のひもが緩む機会もあるなど、食への関心の高さに加え、食にお金を使える環境や機会が揃っていることで「ぜいたくな食」を実現できていると感じました。

今後も「高齢者は食が暮らしの真ん中」という現状認識に基づき、
高齢者の食の特徴を食品スーパーの購買データを使いながら掘り下げていく予定です。
次回以降もご期待ください。