2024年度“高齢者の食事情”最新レポート
第2回 高齢者の食は「ていねいな食」
“高齢者は“食”に手間をかけている”
2024年度の「買い物から見えるくらし -食の購買行動定点観測-」は、食品スーパーにおける買い物を対象とした購買データから高齢者がどのような食生活を送っているかを知ることをテーマとし、前期高齢者、後期高齢者の違いにも注目しながら高齢者の食に関する行動や意識、またその背景をシリーズで探っていく予定としております。
前回の第一回目は、高齢者の生活の中で「食」は大きな部分を占めており、食生活の実態も、内面の意識の上でも「食がまんなか」な生活を送っているという認識をまとめましたが、今回以降は食品スーパーの購買をデータ中心に、より具体的な高齢者の購買行動の特徴を見ていきます。
第二回目である今回は高齢者の食における一つの特徴として、調理に手間をかけ、食材や季節感などにもこだわる「ていねいな食」を取り上げ、ご紹介していきます。
購買データに関して特に引用元の表示がない場合は、株式会社ショッパーインサイトの購買履歴データを用い、同社が保持する購買履歴データを本コンテンツ向けに独自の集計、加工を行い分析いたしました。
1.高齢者は「炊事、掃除、洗濯」に使う時間が長い !
まず、少し前のデータにはなりますがNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」に、「炊事、掃除、洗濯」に使う時間の長さを調査した数字がありましたのでこれを見てみます(図表1)
図表1 一週間で「炊事、掃除、洗濯」にかけた時間-年齢層別
(単位 時:分。NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」2020 https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/ より、一週間分の時間を合計し男女の単純平均を算出)
これを見ると、「炊事、掃除、洗濯」にかけた時間は60代が最も長く12時間弱、それに次ぐのが70代となっており、これらに費やす時間は高齢者の方が長い傾向があるようです。高齢者は若い世代に比べて、「仕事」に使う時間が短くなる分、他の活動に使う時間が長くなる傾向がありますが、これは「炊事、掃除、洗濯」でも同様で、これらを手間や時間をかけていて、食についても「ていねいな食」を行っていると想像できます。世帯人数が少なくなる高齢者世帯でかける時間は長くなっているのはていねいに行っていると解釈して良いかと思います。
次から、高齢者の「ていねいな食」が買い物の上でどのような違いとして表れているかを購買データから見てみます。
まずは「調理」のていねいさを見ていきたいと思いますが、購買データからこれを表す指標として基礎調味料の購買状況を見てみます。調味料に関しては「塩」「しょうゆ」など個別の調味料が独立した「基礎調味料」と、各種調味料がすでに配合、加工された「加工調味料」がありますが、この「基礎調味料」を使い味付けを行う調理は時間や手間もかかりますし、ここではより「ていねいな食」と解釈します。
最初に高齢者の調味料全体の購買状況を見てみます(図表2)。
図表2 高齢者の金額PI値全体比(PI値:1000人当たり購入金額)
これを見ると高齢者は全体平均に比べて「食品・飲料計」ではより購入金額が多くなっていますが、「調味料」に限れば全体よりも3%弱少なくなっています。
次にこの「調味料」のうち、代表的な基礎調味料カテゴリーをより細かい分類で見てみます(図表3)。
図表3 主要基礎調味料:高齢者の金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)
主要な基礎調味料をカテゴリー別に見ると、多くのカテゴリーで高齢者の購入金額が全体を上回っており、高齢者の基礎調味料購入金額が高い傾向があることが分かります。これは高齢者がよりていねいに調理を行い「ていねいな食」を実践していることを示していると認識しています。
また高齢者の中でも多くのカテゴリーで特に後期高齢者の購入金額が高いようです。
次に、調味料の中でもカレールーや特定のレシピ向けに調整されたレトルト調味料など加工度が高いものを指す加工調味料を同じように見てみます(図表4)。
図表4 主要加工調味料:高齢者の金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)
こちらを見ると多くのカテゴリーで高齢者の購入金額は全体を下回っており、基礎調味料とは反対の傾向があり、高齢者ほど調理が簡単になる加工調味料を使うことが少ないことが分かります。そして後期高齢者ほど全体との差が大きく、世代の傾向が明瞭に見られることは同じです。
また、和食系の調味料よりも洋食系で全体よりも高齢者が少なくなる傾向もあるようですが、「鍋つゆ」はかなり全体より少ないのですが、これには例外もありそうです。鍋料理自体が簡便性でファミリー世帯に支持されている料理ですし、もしかすると市販鍋つゆを使用する鍋料理自体が「ていねいな食」とは言いにくいのかもしれません。
調理のていねいさを示す指標として、もう一つ「出汁」に関連する食品の購買金額を見てみます(図表5)。
図表5 出汁関連乾物:高齢者の金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)
だし調味料を使うか、乾物から出汁を取るかでいえば、出汁を取るほうが手間はかかりますから、出汁として良く使用されるこれら乾物を購入する人の方が「ていねいな食」と言えるのではないかと考えていますが、これらの出汁関連食材の購買金額を見ると、基礎調味料以上に高齢者と全体の差は大きくなっています。高齢者の中でもとりわけ後期高齢者の購買金額が高く、「煮干」は+114%になっており全体平均の倍以上買っているということになります。ちなみにこの全体平均の中には高齢者も多く含まれているため、高齢者以外と高齢者を比較した場合にはこの差はもっと大きくなります。
このような調味料、乾物の購買データから見ると、調理が簡易になる加工調味料をあまり使わず、各種基礎調味料を揃え、出汁を取り、手間をいとわず和食中心に我が家の味を作る「ていねいな食」を行う傾向が高齢者にあり、とりわけ後期高齢者において明確という状況があるようです。
3. 高齢者は食を自作する、そして楽しんでいる !?
高齢者の食の特徴として、食に手間をかけるというのがありますが、これは調理に手間をかけるだけでなく、加工食品や飲料を購入するのではなく自作するという行動もあります。
加工食品や飲料を家で作る行動を表すものとして、梅酒、ジャム、シロップとして加工される「梅」と、らっきょう漬けになる「らっきょう」の高齢者の購買を見てみます(図表6)。
図表6 「梅」「らっきょう」高齢者の金額PI値全体比差分(PI値:1000人当たり購入金額)
こちらも乾物同様に高齢者の購買金額が高く、その中でも後期高齢者がさらに高くなっています。後期高齢者の「らっきょう」購入は全体平均の+106%ですから倍以上買っていることになります。図表4にある「漬物調味料」も高齢者に多く買われているため、らっきょう漬けに限らず他の漬物を自作する高齢者も多いのではないでしょうか。
これは「ていねいな食」を超えて趣味として食を楽しんでいると言った方がいいレベルかもしれませんね。購買データからは見えにくいですが、「そばを打つ」「餃子の皮を自作」「燻製を自作」「干物を自作」などを楽しんでいる高齢者も少なくないのではないでしょうか?
今回は「高齢者の暮らしは食が真ん中」とした一つの要素として「ていねいな食」を取り上げ、調理関連時間や調味料や乾物、自作用食材の購入実態を見てきました。
調味料で見れば一般的には調理を簡便化する加工調味料を使用するよりも、調理の手間や知識、技能が、より要求される各種の基礎調味料を使用することが高齢者に多く、こだわった「我が家の味」を作ることを好む傾向が見られます。また、やや和食を好む傾向が見られますが、出汁に関連した乾物の購入も多く、これは手間とコストをかけて美味しいものを作ろうという食への意欲の高さを示すものと考えられます。更には調理だけではなく、食材の自作まで行うことが高齢者に多いことが分かりました。
これらのデータから、高齢者にとっての食の楽しみは、食べることの楽しみだけではなく、調理の課程を楽しみ、食材作りを楽しむなど、食のバリューチェーンにおける様々なプロセスに手間をかけてていねいに関わっていくことであると感じました。購買データには現れませんが、おそらくより上流工程としての食材調達にも、家庭菜園やキノコ狩り、山菜取りなどを通じて関わり、趣味やレジャーの面からも「食がまんなか」な暮らしを送っている高齢者も多いのではないでしょうか?
この特徴は後期高齢者ほどより強い傾向を示しています。電子レンジ、冷凍冷蔵庫や、だし調味料などがなかった時代の食は、現代の基準ではとても手間のかかる「ていねいな食」であろうかと思われ、積極的な選択だけでなく、昔のやり方が残っているという習慣面や、生活に時間の余裕があるからできるという環境面の要素もあるかとは思いますが、少なくとも高齢者、特に後期高齢者が「ていねいな食」を現在でも実践しているということは言えるでしょう。
今後も「高齢者の暮らしは食が真ん中」という現状認識に基づき、高齢者の食の特徴を食品スーパーの購買データを使いながら掘り下げていく予定です。
次回以降もご期待ください。