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2023年度第8回
スーパーにおける高額商材の買われ方
(2022年1月~2023年12月)

2023年度の第8回は、食品スーパーにおいて高単価商品がどのように、どんな人に購入されているかを分析いたします。様々な食品・飲料で値上げが相次ぎ実質所得がマイナスになる中で、株高による資産効果やインバウンドの寄与などで百貨店販売額が10%近く増加するなど消費もまだら模様ですが、この環境下において食品スーパーで高額商品を購入するショッパーの購入機会や属性を購買データから探ります。集計には、特に引用元の表示がない場合近未来消費研究で使用した株式会社ショッパーインサイトの購買履歴データを用い、同社が保持する購買履歴データを本コンテンツ向けに独自の集計、加工を行い分析いたしました。

今回のレポートでは、2022年1月から2023年12月にかけてのショッパーの酒類購買行動を集計・分析し、その内容と変化を見ていきます。
尚、一部分析対象店舗が異なるため、以前のレポートとは結果が一部異なることをご了承ください。

1.「和牛」月次販売推移

食品スーパーにおいて比較的高額かつ販売金額の大きい生鮮食材として、まず「和牛」を取り上げます。
最初は販売の季節性を見るために、月次の販売推移を、牛肉全体との比較で見てみます(図表1)。単位は買い物1000回あたりの購買金額である「金額PI(Purchase Index)」を使用いたします。

図表1 月次金額PI推移(単位:円)

図表1 月次金額PI推移(単位:円)

牛肉全体で見ると12月に大きく販売金額が上がるのが分かります。12月には冬のボーナス、クリスマス、年始の食品スーパー休業を控えた買いだめなどがあり食品スーパーの販売金額が年間で最も高まる時期なのですが、その中でも特に12月において山が高い商材のようです。
「和牛」を見ると、牛肉全体同様に12月に山が高くなっており、他の月のほぼ2倍に相当する金額となっています。このため牛肉全体の12月販売増の3分の2程度は和牛の販売金額増によるもので年末に伸びるカテゴリーです。「豪州産牛」を見ると12月の山はわずかで牛肉と言うより和牛が12月に大きく販売は増えると言った方が良さそうです。
また12月ほどではないですが牛肉全体を見ると1月、5月、8月に小さな山がありますがこのうち1月、8月は和牛にも山があります。しかし5月は和牛の山はわずかです。5月は連休明けの補充需要がある時期ですがそこでは和牛への需要はそれほど高まらないようです。

次に牛肉全体に占める比率を見てみます(図表2)

図表2 牛肉全体に対する「和牛」「豪州産牛」金額PI構成比

図表2 牛肉全体に対する「和牛」「豪州産牛」金額PI構成比

牛肉全体に対する比率で見ると、和牛は3割弱の構成比となる月が多いですが12月には4割ほどとなり大きく構成比を高めます。また8月にも構成比が上がり3割を超えます。これに比べて豪州産牛は年間通じて1割前後であまり比率が変わりません。

このような山の状況を見ると、和牛は12月の年末帰省、8月の夏休み帰省などでいつもと違うイベント的な食卓において人気のある食材と考えることができます。

季節性を除いたトレンドを見るために2023年暦年の金額PIを前年と比較してみます(図表3)。

図表3 2023年間金額PI前年比

図表3 2023年間金額PI前年比

年間で比較すると販売金額で牛肉全体も和牛もマイナスとなっています。一方で豪州産牛は1割ほど増加しています。2023年末はコロナによる行動制限もなく帰省も盛んだったのですが実質賃金低下の影響による節約トレンドがそれ以上に影響していたのかもしれません。

2.「和牛」購入者の分析

どんなショッパーが購入しているのかを見るために、和牛の性年齢購入者比率を見てみます(図表4)。

図表4 「和牛」2023年間購入金額性年齢別構成比

図表4 「和牛」2023年間購入金額性年齢別構成比

男女の比率で見ると、食品スーパーの全商品合計では男性22%、女性78%ほどですが、和牛の場合男性が17%、女性が83%ほどになり全商品合計に比べて女性の比率が高いようです。また年代で見ると女性60代以上の構成比が高くなっています。男性や女性の40代以下で全商品合計より構成比が上がる豪州産牛とは同じ牛肉でも全く逆の傾向があります。

男女を合計して年代別に集計すると以下のようになります(図表5)。

図表5 「和牛」2023年間購入金額世代別構成比

図表5 「和牛」2023年間購入金額世代別構成比

男女を合計しても、やはり高年齢層ほど和牛を買っている傾向はあります。帰省が購入のトリガーになっているとすればホスト側になる親世帯が和牛を買っているということでしょう。

次に和牛購買のピークである12月に和牛購入者が同時に買うことが特徴的に多いカテゴリーを見てみます(図表6)。表にある「リフト値」は「和牛購入時同時購入率÷購買全体の購入率」を示し、和牛との買われやすさを示します。

図表6 「和牛」2023年12月購入時の同時購入カテゴリーリフト値上位(「畜産」「水産」除く全体購入率0.1%以上)

図表6 「和牛」2023年12月購入時の同時購入カテゴリーリフト値上位(「畜産」「水産」除く全体購入率0.1%以上)

「白滝」のリフト値が5.94となっていますが、これは全ての買い物で「白滝」が買われる率の5.94倍の率で和牛購入時に「白滝」が買われていたという意味になります。このランキングで「蒲鉾」を除けばすべてが「すきやき」に用いられる食材や調味料ですね。年末、帰省時には和牛ですきやきが人気メニューのようですね。

3.「五千円以上のワイン」月次販売推移

次に、飲料カテゴリーにおける高額商品としてワインを取り上げます。今回はワインの中でも単価5000円以上の商品だけを抜き出して分析対象とします(以後「ワイン五千円以上」と表記します)。
まずは月次の金額PIを見てみます(図表7)。

図表7 月次金額PI推移(単位:円)

図表7 月次金額PI推移(単位:円)

ワイン五千円以上は12月に山があり、2023年12月は平常月の4倍以上販売しており和牛以上に山が高くなっています。これは行動制限のない年末で、ホームパーティ的なイベントも含め家飲みが活発になった可能性や手土産的な需要が増えた可能性があります。2023年1月も高かったのですが、2022年1月は高くないので2023年1月は特殊な要因があったのかもしれません。

4.「ワイン五千円以上」購入者の分析

次に購入者の傾向を見てみます。性年齢別の構成比を見ると以下のようになります(図表8)。

図表8 2023年間購入金額性年齢別構成比

図表8 2023年間購入金額性年齢別構成比

ワイン全体で見ても全商品合計に比べて男性比率が高くなり、年齢層の高い女性で低くなる傾向がありますが、ワイン五千円以上で見るとその傾向がさらに強くなります。特徴的なのは男性の30代、40代で、ワイン全体と比べて比率が大きく上昇します。

男女を合計して世代別に集計するとこのようになります(図表9)。

図表9 2023年間購入金額年代別構成比

図表9 2023年間購入金額年代別構成比

こちらを見るとワイン五千円以上は比較的若い世代に買われる商品であることが分かります。性別、年代共に和牛とは反対の傾向を見せています。

 最後に2023年12月のワイン五千円以上購入を日別の金額PIで見てみます(図表10)。

図表10 2023年12月のワイン五千円以上日次金額PI(単位:円)

図表10 2023年12月のワイン五千円以上日次金額PI(単位:円)

日別で見ると、クリスマスイブの12月24日とその前の19日に山が出来ており、年末も高いのですがクリスマスに関連した購買もあるように見受けられます。これが関係して性年齢で見ても和牛と異なる傾向を見せている可能性があります。
アイテムとしても年間購入金額1位はシャブリなのですが2位から6位までを各有名銘柄のシャンパンが占めており、これらはクリスマスやパーティに飲まれそうです。さすがに数は少ないですがメドック5大シャトーやカリフォルニアの代表的なシャトーなども販売実績としてはありました。お店から見れば年に1本売れれば上出来な購買頻度ですが1本で10万以上の売上になるので、これらを店に置いておくかどうかは悩ましいところですね。

今回は食品スーパーにおける高額商品として「和牛」と「ワイン五千円以上」を取り上げて購買データを分析いたしました。

「和牛」に関しては

  • 12月に売れる商品。
  • 高年齢女性の購入比率が高い。
  • 12月の同時購入を見ると多くはすきやきとして食べられていると考えられる。
などの特徴が見られ、とりわけ年末年始の帰省に関連してホストファミリーである親世帯中心に良く買われていると考えられます。但しカテゴリーとしては前年比より減少しており、豪州産牛他に流出している可能性があります。これには物価上昇による実質所得の低下なども要因として考えられます。

「ワイン五千円以上」では、

  • 和牛同様に12月に売れる商品ですが、年末年始以上にクリスマスに売れる。
  • ミドル男性の購入比率が高い。
などの特徴が見られることからホームパーティやワイン会に関連して買われていることが想定されます。前年比で伸びていることから、2023年の行動制限のない年末においてパーティなどの行動が活発になった影響が考えられます。

今回分析したカテゴリーは2カテゴリーでこれだけで大きなトレンドを語ることはできませんが、この2つでも販売状況や購入者層に異なる傾向を持っていました。このように同じ高額商品といっても一律の傾向を示すとは限らず、各々のカテゴリーにおいてそれぞれ様々な要因の影響を受けているようです。食品スーパーと言う業態は極めてクラスレスな業態で富裕層から一般層まで老若男女問わず多様なショッパーが集まるためそこで買われるものは社会の縮図でもあると考えますが、多様な顧客層がいるためにそれぞれの顧客層が支持するカテゴリーのトレンドも多様になっていると考えることができます。

今後もショッパーの行動を継続して観察し、生活者や市場の変化を追い有益な洞察をご提供していきたいと考えています。