新型コロナウイルス...
ウイルスが猛威を振るった時期は遠くなりつつあります。
今回は「都市生活者意識調査」を通じて、都市生活者の行動の中で、変わったこと、変わらなかったこと、戻ってしまったことを見ていきたいと思います。
まず、新型コロナウイルスの感染拡大と収束までの間に何が起きたかを振り返ります。
上の表は新型コロナウイルスの新規感染者推移です。
新型コロナウイルスの脅威は、2020年1月16日の感染第1号公表から2023年5月8日の第5類移行まで、概ね3年4ヶ月続きました。
感染当初に出された(当時の言葉で「発出」された)主な要請や措置は以下の通りです。
・2020年 2月26日 政府による大規模イベントに対する自粛の要請
・2020年 3月24日 東京オリンピックの実施が1年延期
・2020年 4月 7日 大都市圏で緊急事態宣言発出
・2020年 4月20日 緊急経済対策の発表(持続化給付金)
この時期まで、国内は感染拡大防止対策で手一杯という印象を受けます。
それから1年間、我が国は3度の感染拡大の波に耐えながら、世界的に見るとコロナワクチンの開発が進められていました。
また、コロナで厳しい状況に陥った経済を活性化するため、「緊急事態宣言」に代わって、規制が幾らか緩やかな「まん延防止等重点措置」も取られました。
その後の経過は以下の通りです。
・2021年 4月 5日 大阪、兵庫、宮城でまん延防止等重点措置宣言
※4月11日以降、対象地域が順次拡大
・2021年 4月12日 高齢者・医療従事者を優先としてコロナワクチン接種の開始
・2021年 5月17日 自衛隊大規模接種センターによるワクチン接種開始
・2021年10月26日 ワクチン2回目接種率が国民の70%超に
随分昔の話のようにも思えますが、まだ3~4年前の出来事です。
一方、コロナウイルス自体も変異が始まり、下記グラフのように、2021年7月からの第5波では「デルタ株」が、2022年1月からの第6波では「オミクロン株」がコロナウイルスの主たるタイプになりました。
上の表の赤線の通り、重症患者は第5波をピークに低下し、コロナウイルスが生死に深く影響する脅威は薄らいでいきました。
そして2023年5月8日、厚生労働省は新型コロナウイルスの第5類移行を発表、感染者や濃厚接触者の外出制限やマスクの着用は推奨されるものの、最終的には任意=自己責任に変わりました。
日常生活を大きく変えた新型コロナウイルス...ピーク時には、
・外出時はマスク着用、外から戻ったら手指消毒とうがい
・仕事はオンラインによるテレワーク、出勤してもアクリルパーテ越し
・学校の入学式や卒業式は中止、もしくはオンライン
・病院の面会も不可かアクリルボードを挟んでの対面
・スーパーへ行くのも少人数で
・コンサートやプロスポーツでもマスク着用+声出しNG
という日常生活を余儀なくされていました。
今ではこれらの事象が「昔の」記憶になりつつあります。
それでは、「都市生活者意識調査」で、コロナの前後での都市生活者の変化を見ていきたいと思います。
では「都市生活者意識調査」の中で、コロナ中の2020年度調査を中心にコロナ前後の変化を見てみます。
まず、人々の行動の中で「変ったこと」をご紹介いたします。そのために、コロナに対して「取った行動」の調査結果を見てみます。
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/202002.pdf P.152
コロナが猛威を揮った2020年度の調査では、マスク・手指消毒、三密の回避、ソーシャルディスタンスの維持など、自身でも覚えのある対応の数々が上位に来ています。
そのパーセンテージも高く、生活者の行動に大きな影響があったことが分かります。
コロナの調査自体は、官公庁や医療機関等、多くの団体が調査を行っています。
医療、健康、生活、働き方、子育て、介護等...コロナ時の生活様式の変化について専門的な調査を行ったり、2023年度までの長期調査を行ったりしている所もあります。
数あるコロナ調査の中で「都市生活者意識調査」の調査は、
・気持ちの変化、生き方に対する意向など、かなり突っ込んだ設問がある
・コロナの感染拡大に関係なく、毎年同じ設問で調査している
という特性があり、都市生活者の本音や生活の実態が浮き彫りにされる調査結果をご紹介できます。
次の「変ったこと」は(2)「新たに取り組んだこと」です。上位10項目を見てみます。
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/202002.pdf P.154
1位になったのは意外にも「家の片付け」、自宅滞在時間が増え、家の整理に目が行くようになったのかもしれません。
「新たに取り組んだこと」の多くは、テレビ視聴、ネット配信コンテンツの視聴、料理、読書など、自宅で実行出来るもので、2位のウォーキング、ジョギングが僅かに屋外活動となっています。但し、(1)の「取った行動」と比較して各々のパーセンテージは低く、行動の変化は限定的だったとも思われます。
「変ったこと」の3番目は「気持ちの変化」です。
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/202002.pdf P.156
人々が健康のありがたみに感謝し、自身の健康維持のための強い意識を持つようになったことが伺えます。
また、7位に「生活を支えてくれる職業の人に感謝を感じるようになった」が入っています。そう言えば、コロナ拡大初期、ゴミ回収の職員さんに「ありがとう」のお手紙を添えた人もいました。
また10位には、医療崩壊寸前に追い込まれながらも、患者さんと向き合い続けた医療スタッフに対する思いも示されています。
次に見ていくのはコロナ前とコロナ後で「変わらなかったこと」です。
「都市生活者意識調査」は何年にもわたって同じ設問の調査をしています。
コロナ前の2019年とコロナ後の2023年で「生き方・暮らし方」に対する調査の結果はこのようになりました。
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/data2023.pdf P.31
https://www.hilife.or.jp/pdf/202002.pdf P.27
この調査については、多くの項目で、コロナ前後での大きな変化はありませんでした。
特に上位の2項目、
・のんびり、やすらぎのある暮らしがしたい
・健康的な生活がしたい
という考えをもった人々の割合はほとんど余り変っておりません。ただし、
・家族や親しい友人と楽しく暮らしたい
・将来をちゃんと考え、目標を持って計画的に行きたい
という項目大きく減っています。
コロナという経験を経て、人生何が起きるか分からない、計画的に生きたり、家族や友人と楽しく暮らすことが難しい世の中になった、という境地に至ったのでしょうか...
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/data2023.pdf P.73
https://www.hilife.or.jp/pdf/202002.pdf P.67
「健康・美容・医療」の調査においてもコロナ前後で大きな差はありませんでした。
前述した「取った行動」の調査結果では、マスクの着用や手指の消毒等、コロナ対策の行動がかなり高いスコアを獲得していたにもかかわらず、同じ回答者に行ったこちらの設問では大きな変化はありません。
日頃、上記のケアを行いつつ、その上で、コロナ時に新たにマスク着用や手指消毒を行うようになった、と考えるべきでしょうか?
あと、気になったのは、コロナ収束後の2023年に、
・できるだけ歩くようにしている
・規則正しく食事を取るようにしている
というパーセンテージがやや下がったこと。
コロナ時に比べて歩かず、不規則に食事を取る...気の緩みがちょっと感じられます。
2023年度の「都市生活者意識調査」では、5月8日の第5類移行を受けて、「新型コロナウイルスの感染拡大による変化」のというコロナ後の質問項目も盛り込みました。
その中で「仕事に対する意識・行動の変化」の結果はこのようになりました。
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/data2023.pdf P.192
この設問で圧倒的に多かった答えは「特に変化はない」でした。
テレワークの実施、オンライン会議など、コロナは生活者の仕事のやり方を変えました。
「将来の仕事や収入を見直そうと考えるようになった」という検討をする回答や、実際に「転職した」という回答もありますが、最も多かったのは「特に変化はない」でした。
自分の仕事のあり方に対して、行動に移さないこともとより、検討すらしなかった人が非常に多かったのが分かります。
これが生活者の本音なのかもしれません。
最後に見ていくのはコロナ前に「戻ってしまったこと」です。
興味深い結果として「最近1年間で増えた支出」をご紹介いたします。
参照ホームページ https://www.hilife.or.jp/pdf/201902.pdf P.97
https://www.hilife.or.jp/pdf/202002.pdf P.79
https://www.hilife.or.jp/pdf/data2023.pdf P.85
これは、「都市生活者意識調査」の2019、2020、2023年度調査で「1年間で増えた支出」の結果です。
食料費や水道光熱費など、年ごとに増え続けている項目がある一方、
・趣味・娯楽費
・交際費
・交通費
などはコロナ中の2020年度は減ったものの、コロナ後調査の2023年度では戻ってしまいました。
コロナ中の2020年度は自粛生活で、出費しようにも出来なかった都市生活者が、元の生活を取り戻すべく、①交通費を掛けて外に出て、②趣味や娯楽を復活させたり、③他者との交際を再開させたり...この調査結果に人々の生活の息づかいも感じられます。
良い意味で元に戻ってしまったと言えるのではないでしょうか?
今回は「都市生活者意識調査」の調査報告の中で、コロナ前、コロナ中、コロナ後の変化を見てきました。
人々の行動や意識について、具体的な設問の多い「都市生活者意識調査」には興味深い調査結果が多く読み取れました。
1.「変ったこと」については、マスク着用や手指消毒など、一般的な行動変容も示されていますが、一方で、「新たに取り組んだこと」として「家の片づけや不要物の廃棄」などが上位に来たり、「気持ちの変化」で、「生活を支えてくれる職業の人に感謝を感じるようになった」とか、「医療は限りある資源であると思うようになった」という生活者の思いを知ったりできました。
2.「変わらなかったこと」に関しては、「のんびり、やすらぎのある暮らしがしたい」、「健康的な生活がしたい」という願望はコロナ前後で変化がなかったことが分かりました。
健康に対する取り組みも「歯磨きなど口腔ケアをしっかりとする」、「できるだけ歩くようにしている」、「定期的に健康診断を受けている」など、変化はありませんでした。
更に、仕事に対する意識・行動の変化でも、大半の人は「特に変化はない」と回答しています。
全体的には変わらなかったことの方が多いという結果となりました。
最後の章、3.「戻ってしまったこと」では、「増えた支出」でのユニークな調査結果をご紹介しました。
そこには、支出の増加を通して、コロナの自粛から解放された人々の姿を伺い知ることができました。
「都市生活者意識調査」では、この他にも多くの調査結果が報告書に載せられています。
https://www.hilife.or.jp/report-toshi
是非、各年度の報告書をご覧頂き、都市生活の気付きになればと願っています。