特別企画|ホスピタリティ研究チーム インタビューシリーズ

生きにくさ、閉塞感と現代人の身体|お話:平山満紀 江戸川大学准教授/インタビュアー:足立裕子、清家竜介

“現代日本人が急速に、身体の面から衰弱してきていることに、危機感をもったからです。そのひとつの面ですが、姿勢が悪い、呼吸が浅い。日本には「腰肚文化」の伝統があったなどと言われますが、何をするにも「姿勢」が大切だと認識されてきました。しかし、現代日本人は姿勢の重要さを忘れて、集中力なども低下し、また姿勢のせいもあって呼吸が浅くなっています。基礎代謝が低く、低体温などでしょっちゅう具合が悪くなってしまう子どもたちも多いです。(平山先生)”

「ホスピタリティ」をテーマにお話をきくインタビューシリーズ。

今回は、平山満紀 江戸川大学社会学部人間心理学科准教授にお話をうかがいます。

先生のご専門は社会学・身体論で、日本人の身体の変化について、危機感をもって研究を続けられています。私たちが毎日の生活の中で感じている「生きにくさ」や「閉塞感」と現代人の身体との関係について、平山先生よりお話を伺いたいと思います。


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Q.はじめに、平山先生は江戸川大学でユニークなご講義をされていると聞いておりますが、具体的な内容について教えていただけますでしょうか。

平山:はい。今から4年前に人間心理学科の中に身体論コースというのを作りました。現代人の身体には色々な偏りや衰弱などの問題がありますが、それを捉えて改善していく研究をする一方で、学生自身の身体と向き合い、その身体を育てていこうという趣旨のコースです。他の大学にはない授業として、現代身体文化論、整体
の実習、日本の民俗舞踊の実習、ダンスセラピーの理論と実習、身体コミュニケーションの理論と実習、ラテン系ペアダンスの実習などがあります。

Q.それらを始めようとされたきっかけはなんでしょうか。

平山:それは、現代日本人が急速に、身体の面から衰弱してきていることに、危機感をもったからです。そのひとつの面ですが、姿勢が悪い、呼吸が浅い。日本には「腰
肚文化」の伝統があったなどと言われますが、何をするにも「姿勢」が大切だと認識されてきました。しかし、現代日本人は姿勢の重要さを忘れて、集中力など
も低下し、また姿勢のせいもあって呼吸が浅くなっています。基礎代謝が低く、低体温などでしょっちゅう具合が悪くなってしまう子どもたちも多いです。子ど
もたち、若い人たちは身体自体が衰弱しているために精神力も弱く、知識を受け取る力や、問題に取り組む力が乏しいと思うのです。若い人たちを、身体の基礎
から育てないといけないと思いまして、作ったわけです。

また、身体が潜在的に持っている力をもっと発揮できるような、身体の使い方の文化を、学生とともに研究しています。伝統的な身体文化を再生させることと、日本にこれまでなかった身体文化をはじめることの両面から、21世紀のIT化時代にふさわしい身体文化をこの身体論コースを拠点として作っていこうと、活動してきています。

Q.伝統的な身体文化として、日本の伝統的な民俗舞踊を取り入れてらっしゃると聞きましたが。

平山:はい。「三番叟」とか「綾子舞」など多くの民俗舞踊が古くから各地に伝わっています。プロではなく民衆が、仕事の合間に稽古をして、共同体の中で何百年も伝えてきた踊りで、地方ごとにさまざまな特色があります。

生活だけで手一杯で、 お医者さんにもかかれないような庶民たちが、そのような踊りをすることで身体や心を癒し、整えてきたと考えられます。もし、踊りで筋を傷めたり、翌日に疲
れが残るなど身体に無理がかかることがあれば、ぎりぎりの生活をしている民衆が、続けられるはずがありません。これが何百年も続いてきたのは、体調不良、
生活苦、心の苦しみなどを抱えていても、踊ることで心身が整えられて、より元気になるという要素があるからです。

民俗舞踊は、動きも合理的です。例えばバレエなどの動きは、かなり身体に無理がかかって、プロの人達は、踊った後マッサージや鍼などでメンテナンスをしないと続けられないといいます。民俗舞踊はまったく逆で、身体に無理をかけないどころか、体調不良や怪我などに治癒的な効果があるのです。そして、身体の色々な所を鍛えるようにもできていて、子ども、若者など世代ごとに踊りが違いますが、ちょうど当の年代に相応しい、身体を整える要素があるのです。

私たちも、毎回の実習授業の最初と最後に、自分の身体と心の状態を、5段階で自己評価させるのですが、全員が必ず、最初より最後の方が上がっています。

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