マイナスをプラスに変えること 山野真悟氏インタビュー(4)
-「黄金町バザール」などの活動に対する地元住民からの反応、意識の変化はどのようなものでしょうか?
◇10年まちづくり―最後の鍵は地域の意識が変わること
いつも言うことですが、100パーセント賛成してもらえる活動は、まずあり得ません。では目安は何かというと、賛同してくれる人が増えているかどうか、です。そういう意味で言うと、徐々に増えているという感触があります。今まで距離の遠かった人たちが、近づいてきています。
最初は距離の遠かった人たちが近づくきっかけとして一番大きいのは、黄金町バザールのサポーターをやってみて、街に来た人たちの反応を見ることです。また、バザールのことが新聞などのメディアに出て、自分たちのまちが外からどう見られているかを、第三者から言われます。そういう機会がどんどん増えていくわけです。
するとどうしても、自分たちのまちが今どういう状況にあって、NPOがどういう活動をしているかを認識していきます。そういうことでも意識が変わっていきますよね。
このNPOがスタートして、まちづくりがこれでもうだいたい出来上がる・・・と言うには、10年くらいかかるだろうね、と言われています。10年くらいを一応目安にして、3年くらいで少しずつ軌道修正します。ですから、まだ入り口くらいですね。
最後は、地域のみなさんです。みなさんの意識が変わって、これはこうなるんだ、これはやろう、というところまで来ないといけないと思っています。それでも、意識が変わる速度はちょっとずつ上がっていますね。思ったより早いなあ、と感じます。
そもそも、この初黄・日ノ出環境浄化推進協議会ができたのも、長年ここに住む住民の方々が声をあげたことがきっかけです。地域住民の中に「どうにかしたい」という切実感があったわけです。ですから、僕たちに対して最初はあまり期待していなかったにもかかわらず、バザールなどを経た今ではとても協力的になってくれた方々もいます。
― 山野さんが、黄金町で、アートの視点からまちづくりに取り組まれて感じたこと、今後についてお聞かせください。
◇「まちが変わっていく」のをリアルタイムで見る貴重な経験
黄金町での仕事で恵まれていると思うのは、まず、地域の人たちの目的意識が高いことです。地域の人たちの目標がばらばらではなく、「この地域が住みやすくなって、経済的な再生をすること」という点で共通しています。だから、何をやらなければいけないかという、課題に対する対応が明確に出していけます。
さらに、行政と警察がすごく協力的なことです。特に警察は、常に出入りをして、細かいことまでチェックしてくれています。要するに、周りの人たちの協力体制ができているんです。
僕としては、これが自分の最後の仕事だと思っています。ここへ呼んでもらって、よかったと思います。今まで色々なことをやってきて、やっとそれが形にできる。確かに大変ですけれど、やりがいがあり、結果がすぐ見えますから。
やはり、まちが変わっていくのを見るというのは、なかなかできない体験だと思います。それも、自分が関わることによってまちが日々変化していく現場を、リアルタイムでじっと見ているわけですからね。
この現場には完成した「模型」はありません。アートの手法、つまり、書いては書き直す手法です。一回やってみて人の意見を聞き、軌道修正をするという作業の繰り返しです。最初からそびえ立つ模型があって、そこに向かって走る、というやり方とは全然違うわけです。
まちづくりの専門家ではないアートプロパーの僕を事務局長という立場に置いているのが、地域のバランス感覚の表れだと思います。おそらく僕みたいな立場の人間というのは、誰かと特別に近づきすぎることもないし、離れていくこともなく、誰とでも等距離でいる。それもやはりアート的なことだと思います。
今後のNPOの活動としては、建築家の人たちともっと幅広いお付き合いをしたいと思っています。できれば毎年5組ずつぐらいこの街に来ていただいて、いろいろな規模のコンバージョン(*1)を進めていただきたいと考えています。
*1:建物に与えられた元の用途を新たな用途へ転換する手法のこと(出典:黄金町バザール2010パンフレット)
- 投稿者:東京生活ジャーナル
- 日時:12:40