マイナスをプラスに変えること 山野真悟氏インタビュー(3)

―黄金町付近の空き店舗の契約形態や運営管理の現状、今後の課題について教えてください。

◇空き店舗の活用例を100軒まで増やしたい
 かつての違法飲食店の空き店舗にNPOが関わる場合、一番多いパターンは、横浜市が所有者から3年くらいの契約で借り上げ、その管理運営をNPOに委託するというケースです。そしてNPOから、アーティストや店をやりたいという人たちに貸し出しをします。7~8割は1ヶ月や1週間の単位での短期貸し出しですね。また、高架下の建物が現在2ヶ所ありますけど、これは京浜急行が建てて、それを市が借り、NPOが管理しています。日ノ出スタジオと黄金スタジオです。

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写真左:日ノ出スタジオ、写真右:黄金スタジオ

 もう一つのパターンは、NPOが直接大家さんから借りるというものです。大家さんと賃貸について交渉したり、あるいは大家さんの方から「ウチのが空いているけどどうか」という話が来たりします。
 違法飲食店の空き店舗は、何らかの意味で原形をとどめているものが、120軒から150軒くらいあると言われています。そのうちNPOが管理しているものが、昔の売買春店舗の単位で数えると40軒はあります。かなり増えましたが、今後さらに増やし、とりあえずは100軒を目指しています。これは行政とNPO共通の目標です。100軒以上を達成して最後の1軒になった時に、ようやく保存の話をしてもいいかと(笑)。

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写真:空き店舗の活用例
左上:初音スタジオ、右上:ハツネテラス
左下:黄金ミニレジデンス、右下:カフェ、カジュアルバー

 現在でもまだ、以前の状態に逆戻りする可能性がゼロではありません。今でも警察の24時間警備体制が続いています。警察が警備体制を縮小したりすれば、また違法店舗が出没し始める可能性があります。


―高架下も含めた地区全体の将来像はどのようなものでしょうか。

◇いずれは外から人を呼べるエリアに
 この黄金町に新しい建物が建つとしたら、京浜急行の高架下ですよね。ここは今、耐震補強工事のため鋼板で全部覆われていますが、いずれは開いて、何らかの建物が建つ時が来ます。そうしたらそれが経済的再生の背骨になって、周辺も変わっていきます。
具体的なプランは、部分的にはありますが、全体の計画や時期などの話はまだありません。
 鋼板が完全に開くのは2年くらい先ということです。そう遠くない将来ですね。それまでに何か計画を進めないといけません。高架下の開発は基本的には、京浜急行と横浜市が合意したものしかやらない、という取り決めがあります。
 このまちの将来の理想像を考えたとき、まず欲しいのは、今後増えていくアーティストたちが活用できるスペースです。とにかくこのエリアには小さな物件しかなく、大きなものはこの高架下にしか作れないので、そういういろいろな用途に使える大きなスペースの需要がすごくあります。
 また、このエリア内には現在、日用雑貨を売る店や、八百屋・魚屋に類するものがあまりなくて、住民の多くはまちの外で買い物をしています。ですから、ある程度の大きさの商業施設も、いずれは必要でしょう。
 そういうものがつながっていったら、外からかなりの人を呼べるエリアになると思います。しかも、このように川がそばにあるというのは、非常に有利な条件ですよね。

◇アーティスト・イン・レジデンス構想
 この場所に滞在しながらアート作品作りをしてもらう活動、いわゆるアーティスト・イン・レジデンスについては、すでに始めています。NPOが招待したキュレーターがいま滞在しています。また、よその団体、例えば美術館が招待したアーティストを預かったりします。そういう場所として、今後もこのエリアが利用される気がします。
また、これは近々始めようと思っていますが、アジアのキュレーターを招待して、黄金町で仕事をしてもらいます。そのキュレーターを自分の国ではなく、さらにどこかの違う国に行ってもらって、そういうやり方でネットワークを拡げていくようなことをやりたいと思っています。
 アーティストはみんな金銭的に苦しい状況です。アーティストに対する報酬は、一般的には生活できないくらい低いんです。黄金町にアーティストを招待する場合、NPOの施設を使えばいいので滞在費は無料ですし、他に製作費と謝礼に当たるものを支払います。だから若いアーティストにとっては、まあそんなに悪くないでしょう。
大学など教育機関との提携はぜひやりたいと思っています。北仲スクールや横浜市大、倉敷芸術科学大学がすでに入ってきています。

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