マイナスをプラスに変えること 山野真悟氏インタビュー(2)
‐この黄金町という場所で、アートをやるといったときに、周りの反応はどうだったのでしょうか?おもしろそうだ、と受け入れられたのでしょうか?
◇地元は「とんでもない」と
最初は「とんでもない」という感じでした。アートと街の再生がどうやってつながっていくのか、どこで結びつきがあるのか、それがわからないと言われました。「アートって、よくわからないアレでしょ? よくわからない人が来るんでしょ?」という反応です。さらに、「アーティストって貧乏でしょ? 貧乏な人が集まって、どうして経済的な活性化になるの?」など、ありとあらゆる面から半信半疑状態でした。それが最初の反応です。
結局、「ああ、こういうことだったのか」とわかってもらえたのは、バザールがオープンしてからです。現実の場所に色々とものを起こして、やっと納得してもらえました。
そして、一番の成果は、それで人が来てしまった、ということです。もちろん、トリエンナーレの効果もあります。単独だったらそんなに人を呼べていなかった。トリエンナーレに来た人たちが、こちらまで流れてきていたんです。特に休みの日など、人がぞろぞろとまちを歩いているという、ここ数年間ありえなかった光景が目の前にあって、驚かれました。
◇10万人には勝てない
2008年の黄金町バザールの時には、人の流れが10万人くらいありました。日によってばらつきはありますが、来る日には本当にぞろぞろと人が歩いていました。当時は写真を撮ってはいけないエリアがありました。カメラを向けると、部屋からおばさんが出てきてわあわあ言うような場所です。でも、みんな、そこでバシャバシャと写真を撮るんです。結局、とうとう向こうがあきらめてしまいました。10万人には勝てないと。
外から来た人にすれば、売春店舗などが並んでいるようなところは、やっぱり珍しいんです。今はもう店は閉まっているんですが、形だけは残っていますから。僕も来た当初は、裏路地を歩くのには緊張感がありました。周辺に住んでいる地元の人でさえ歩いたことのない通りというのが、最近まであったんです。でも外部から来た人は、わけもわからず平気で入って行ってしまう。その効果は大きかったと思います。入って行きたくなるような、風景としての面白さがあるんです。やっぱり特殊な街ですから。他ではありえない建物があったりしますし。
◇「まち」と「アート」が合流したNPO
黄金町バザールの状況を受け、バザールの途中から、NPOを作ろうということになりました。もともと、地元の「初黄・日の出町環境浄化推進協議会」を、いずれNPOにしようという話があったのですが、バザールの効果で、ひょっとしたらこれはNPOを作るいいタイミングではないか、ということになったんです。僕も最初は1年契約だったのですが、その時に地元の方から「もう少し残ってくれないか」と言われました。
そのNPOは、実質的には、協議会の流れとバザールの流れが合流してひとつになったものです。今までまちづくりをやっていた人たちと、アートプロパーの人間とがひとつになって、NPOを作ったという形です。
-そういう意味では、アートによるまちづくりがそこで一本になってきた感じですね。
◇「観光」というキーワードに込めたもの
「観光地は休みません」、これが今年の黄金町バザールのテーマです。これは、地域の方に、外部からお客さんが来るという意識を持ってください、という期待を込めてのテーマなんです。このあたりはもともと、卸屋さんの街でした。ですから普通の会社と同じような営業体系になっていて、土日は閉まってしまい、閑散としてしまう。観光地は、逆じゃないといけない。土日に人が来て、お店も開いているという状態です。これは地域の皆さんも含めて呼び掛けています、「ここは観光地なんですよ、そういう意識を持ちましょうよ」と。そういう意図を込めてのことです。
そうすると、地元の方にも、二軒だけ、バザールの期間中は無休にしますというところが出てきました。もともと日曜日はお休みだったのですが、「自分が開ければ済むことだから開けましょう」と言ってくださったんです。
参加するアーティストたちも、観光というコンセプトを楽しんでいると思います。そうでないと、こういうものはできない。例えばこの建物(編集局注:日ノ出竜宮)ですが、隣の部屋にお土産屋さんと称してスペースを取っています。観光地だからお土産屋さんは要るだろうということです。黄金町のシールを作って、キーホルダーまで作って、売っています。半ば遊びですが、観光というキーワードをもとに展開して遊ぶ、そういうことができればいいと思います。いずれ地元の人たちが本気になって、「観光って経済的な効果があるよね」ということになってくれば、これはもう拾いものと言えるでしょう。
今の状況で、ここが観光地です、と言うのは無理がある。それを承知の上でやっています。
写真左:日ノ出竜宮外観
写真右:黄金町バザール2010のパンフレット表紙
- 投稿者:東京生活ジャーナル
- 日時:10:10
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