2010年05月 アーカイブ

変えるものと変えないことと 全編

変えるものと変えないことと 全編をPDFで読む ファイルをダウンロード

変えるものと変えないことと  野毛の概要

 今回の東京生活ジャーナルは、横浜の野毛商店街を取り上げます。この地では1990年代半ばに、当時予定されていた東急東横線桜木町駅の廃止や隣接するみなとみらい地区の整備を見越し、街の活性化を目的とし、横浜市の整備事業の一環としてまちの景観作りを進めました。その時に想定されていた周辺の変化が現実のものとなった現在、当時仕掛けたものの効果は果たしてどのように生きているのでしょうか。まず今月は、整備事業に建築家の立場で関わった山口勝之氏へのインタビューを通して、事業の経緯からお伺いします。

続きを読む

変えるものと変えないことと 山口勝之氏インタビュー(1)

山口勝之氏プロフィール
(株)ユーディーエー 建築家・都市計画家
1981年東京工業大学工学部建築学科卒業。
都市からプロダクトまで環境全般のデザインをフィールドとする。お台場「デックス東京ビーチ」の建築基本計画及び商業環境デザインほか、活動は多岐にわたる。一級建築士、日本建築家協会登録建築家、技術士(都市・地方計画)。


yamaguchisanphoto.jpg
インタビュー風景(山口勝之氏)


― 野毛商店街の街路整備にかかわった経緯についてお聞かせください。

◇危機感が街の整備を促す
 そもそものきっかけは1990年半ばに、東急東横線が桜木町に来なくなり、みなとみらいの方に地下鉄、地下化する計画が出たことが発端です。みなとみらい地区も徐々に整備され、若い人たちはみんなみなとみらいの方に行ってしまうという状況が見えてきました。この計画を始めたのが1997年なのですが、その頃から、今から手を打たないとまずいという雰囲気になっていました。これは横浜市が音頭を取ったのですが、市が補助金を出すので、今のうちに野毛の街として何か対策を考えたほうがいいのではないかと街に対して発信をしました。それと同時にコンサルタントを付けて、勉強会やりなさいということで始まりました。我々が縁あってそこのコンサルタントをやることになったのです。

続きを読む

変えるものと変えないことと 山口勝之氏インタビュー(2)

 前回のインタビューでは野毛商店街の街路整備事業の経緯についてお伺いしました。この事業の最終的な目標はハードな街路整備(道路上にあるものが対象で、床面、街路灯、アーチ、案内板・サイン類、それらに付随する放送設備などの整備)であり、現状の問題把握を行った1年目に続いて、2年目は実際のデザインを提案する実施計画を行いました。


― 具体的なデザインの計画はどのように進められたのでしょうか。

◇ 街全体のイメージを共有することから
 2年目は同じ四つの通りで、街全体を具体的にどのようにしていきたいのか、各通りの特徴や目標は何なのか等について話し合いました。実は、僕が参加し始めたのは、この年度の終わりぐらいからです。まず四つの通りだけでなく、街全体の目標を決めようとしました。四つの通りそれぞれの個性はあるけれども、全体の印象としてはどうなのか。これはソフトの話になりますが、女性が来やすい街にしたいとか、デザインとしては和風の街のイメージ、といったことを全部の通りで守っていく。その上で、各通りの個性を出していこうという議論をしました。だから、もし今後他の通りを整備することになっても、この街全体の枠組みをまず説明することになると思います。

続きを読む

変えるものと変えないことと 田島一宏氏インタビュー

山口氏と同様に野毛商店街の街路整備事業に携わった田島一宏氏に、特に住民を対象としたワークショップの成果や意義についてお話を伺いました。

田島一宏氏プロフィール
長年博物館施設事業に携り、地域と博物館との相互関係や博物館が地域活性化に貢献できる役割など、博物館アイデンティティの計画実務を蓄積。「野毛地区ライブタウン整備事業」の他、「青森県立三沢航空科学館」全体プロデュース、「金沢21世紀美術館」運営計画などを担当。
現在、㈱環境計画研究所取締役。

tajima2.jpg

続きを読む

まちづくりをどのように評価するか -愛着を測ることの可能性と必要性-

編集局 添田昌志

◇時間をかけたことの効果
 今回のインタビューで山口氏、田島氏がともに強調していたことは、まちづくりにおいては住民と意見を交換して集約していくプロセスこそが大切であり、そのプロセスがあるが故に最終的に整備されたものに対して愛着や誇りが生まれるということであった。そして、そのようなプロセスを踏み、お互いに理解し合い、合意形成していくには時間がかかるので、この時間に対する理解を、整備事業を行う行政の側は持つべきだということが述べられていた。
 おそらく、上記のようなことは行政の中でも一部の担当者は分かっていることかもしれないが、時間をかけたことの効果を何かのデータで示すことによって、より多くの人にその重要性を理解させる必要があるのではないかと、私は考える。

続きを読む