良好な住宅地であり続けるために 三井所氏+編集局員座談会(1)
前回は、住政策の専門家である三井所さんにエリアマネジメントという観点から良好な住宅地を維持するための民間事業者の取り組みについてご紹介いただきました。今回は都市計画や建築設計の専門家でもあるジャーナル編集局員を加え、郊外住宅地たまプラーザの課題や価値について議論した座談会の模様をお送りします。
郊外住宅地としてのたまプラーザの特徴
◇ 質も住民意識も高い住宅地
大澤:まず、三井所さんに、たまプラーザの住宅地としての特徴を伺うところから始めたいと思います。
三井所:たまプラーザは、他の郊外住宅地と比べて何がいいかと言うと、フットパスを自然な形で入れ、クルドサックをしているなど、その当時の計画論を踏まえてきちんと作りこんでいることです。緑も豊かで、道路と敷地の生け垣があり、その手前のところにもまた緑を入れるという二重植栽をやっていて、それを維持しようという意識も持たれています。それが協定委員会の立ち上げや、協定の見直しということに表れています。ですから、ハードの環境とそれを維持しようとするソフトの取り組みということに関しては、ある程度完成された状況になっていると思います。
よく手入れされた「二重植栽」
また、世界的な視点で見ても、ここまで、電車の駅と直結している戸建住宅地ってそんなにないんです。一番奥のエリアまでも何とか歩ける距離です。海外の都市計画関係者なんかが日本へ来た時に「鉄道沿線の住宅地の作り方がすごい」と驚くんです。僕が学生時代にアメリカの方からサスティナブルコミュニティの話を聞いていても、それは当たり前じゃないかという感じでした。駅があって、そこから徒歩圏で、まず各所にコアがあって、それがセットで出来ているなんてことは日本ではもはや当然のことで、それが東急の過去80年の田園都市構想のベースになっています。そもそも、東急の田園都市とは、イギリスのロンドンとレッチワースとの関係をきちんと日本なりに作ろうという意図が背景にあったわけですから。
それから今、たまプラーザでは「坂の問題」というのが言われていますけれど、住民が本当にただただフラットな環境を望んでいるのでしょうか。それこそ自転車は、今なら電動式自転車もありますから、大きな問題にはならない。高層マンションでは眺望が売れるポイントになるのと一緒で、起伏とかアンジュレーションというのはそもそも郊外住宅地の売れる特徴でした。いい部分も当然あるんです。
大澤:多分そちらの方が価値として勝っていたという気はしますね。
三井所:この程度の坂で問題だったら、尾道なんて成立しませんよね。
大澤:長崎なんかもそうですね。
川上:結局「坂の問題」は、本質的に何を問題だと言っているのか見えてこないですよね。たまプラーザに対するネガティブな要素として誇張されすぎている印象を受けます。
◇ 新しい機能が入らない
大澤:そういうたまプラーザの特徴がある一方で、今、明らかになりつつある問題というのはどのようなことでしょうか。
三井所:前職のときに、郊外住宅地の空き家の調査等を行っていたことがありましたが、やっぱり一番ネックになっていたのは建築協定とか地区計画を作ることによって、そこに新しい機能が入れられなくなっているということですね。
大澤:そこに建てられる建物の用途ががちがちに制限されているということですね。
添田:新しい機能というのは具体的にどういうものでしょうか。
三井所:喫茶店とか、人が集えるような機能をもったものですね。実は協定を破らないようなすれすれのラインで、家を改造して喫茶店とか、人が集まれる場所にしたりとかっていうのをやっていくと、そこには人が集まってきているという事例が意外とあったりするんです。
添田:なるほど。しかし、時代背景を考えると、開発当初は商店や工場や住宅などがごちゃごちゃに混じった下町というものから脱却することに新しい価値を見出していたと思うんです。つまり、用途純化をして住宅だけがすっきり集まっているということが価値だった。きっと人々は、今までとは違う新しい街になったと、すごく純粋に感動したんだと思うんです。庭付き一戸建てがずーっと丘の上に広がっていく景色に。でもそこに30年住んでみると、やっぱりつらいなと。
大澤:だって、コンビニ一軒建てられないんですよね。まあ現在の住民がそれを望んでいるのかは分からないですが。
三井所:当時出来ていなかったことを否定することはないですけど、今の時代の変化に、例えば都心に住民を持っていかれるよとなった時に、そこをどう考えるの?という部分が大局的にあるんです。それで都市計画の視点というのが重要になってくるんだと思います。全体をドラスティックに変えなくても、例えば軸となる道路沿いに、何か住宅以外の機能をぶら下げる仕組みを作るだけでも、街としての骨格がガラッと変わってくると思うんですよね。
大澤:結局、建築基準法、都市計画法は、建築行為に対する規制なんですよね。つまり、新築する時にやってはいけないことを定めている。そして今見えてきている課題というのは、建てた後どう使うかとかどう維持するかという話で、これらの問題には全然対応できない、ということなんですよね。
三井所:そうなんです。結局、住宅と都市計画が乖離しているというところに問題の本質があると思っています。
- 投稿者:東京生活ジャーナル
- 日時:03:59