良好な住宅地であり続けるために 三井所隆史氏インタビュー(1)

三井所隆史氏略歴

2002年北海道大学大学院博士後期課程修了
2002年(株)市浦都市開発・建築コンサルタンツ(現 (株)市浦ハウジング&プランニング)入社
2008年(株)市浦ハウジング&プランニング退社、みいしょ計画研究所設立
(株)市浦ハウジング&プランニング在職時より、国交省等のエリアマネジメントに関する調査・検討に携わる。専門分野は住政策、エリアマネジメント

― 郊外の戸建住宅地では、現在、住宅の建替えや住まい手の世代更新などの問題が顕在化してきています。このようなことがうまくいかずに、住宅地が廃れていってしまうというような事態もあるようです。そもそもとして、郊外住宅地が抱えている維持管理上の問題の背景について教えてください。

◇ 事業者の開発後の関わり方
 住宅地、特に郊外に新たに開発された住宅地の場合、開発段階でディベロッパー等の企業が携わるものの、宅地の売却が完了した段階で、企業と住宅地の関係がなくなってしまうことが一般的です。したがって、その後の維持管理は住民が担うことになるのですが、それを支える仕組みも、また、何かする上での資金もないような状況にあるのが実状です。結果として、維持管理がうまくいかずに、住宅地が老朽化、陳腐化し、価値が減少するという場合が多くあります。

 開発段階のことで言えば、民間事業者はよい住環境を創るために様々な取り組みをしています。例えば、建築協定(一人協定)等をセットし良好な景観を演出するというものや、住宅地内の道路をインターロッキングにするなどの「お化粧」をしたり、セキュリティ会社と契約し地域の防犯性の向上を謳うということもあります。また、駐車場やフットパス等を共有地とし、それを込みで宅地等を販売することで、豊かな住環境を創出するという例も見られます。

 しかし、多くの場合、販売完了時に民間事業者はその住宅地から手を引き、後は住民、場合によっては行政にお任せの状態となります。維持管理をする上で核となる事業者が抜けてしまった後はどうなるでしょうか。建築協定は時限があるものなので、その後の更新がされず、時代に合わないものになってしまうということがあります。共有地も管理されず荒れてしまい、かえって住宅地の魅力を失わせることもあります。舗装等を含む道路等のインフラの管理を行政に委ねることで、他の普通の住宅地と同じレベルの管理がされ、住宅地の「売り」となるところがなくなることもありえます。

 極端な言い方をすれば、これまでによく見られた民間事業者による住宅地の管理は、あくまでも自らが開発した住宅地の「販売促進のツール」であり、その住宅地の魅力を「継続的に維持」することは目指してこなかったと言えます。しかも、新しい住宅地を次々と売り出していくため、今から20~30年前ぐらいに開発された住宅地は販売促進に敗れ、魅力を失いつつあるような状態です。

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 せっかく整備されたフットパス(歩行者専用道路)も適切な維持管理がされなければ、地域の環境を害してしまう。
 
 特に現在は、住宅ストック数が世帯数を上回っています。つまり住宅が余って空き家率が上昇するような状況にある訳で、今後、地域間・地区間の競争(住民の奪い合い)がさらに激しくなると想定されます。また、新規の開発はこれまでのようには行われなくなるとも考えられます。今後、人口減社会を迎える中では、今ある住宅地の価値を高め、良好な環境を「継続的に維持」していくための取り組みを真剣に考えていかないといけません。それが、「エリアマネジメント」です。


― 具体的にエリアマネジメントとはどのようなことを行うのでしょうか?

◇ 地域の環境や価値の維持向上のために
 一口にエリアマネジメントといっても、その地域の状況によってやること、やれることには差があります。例えば、商業地域では、来街者の増進することを目指したプロモーションが軸となります。人を集める拠点施設の整備や、歩いて楽しい空間の形成、魅力的なイベントの開催などを行っていくことになります。

 では、住宅地ではなにをするのかということですが、よくある例としては、ディベロッパーが策定した建築協定を更新する、フットパス(歩行者専用道)などの共有地の草刈りや清掃をする、といったものが挙げられます。また、地域ぐるみの防犯活動といったことも、近年の大きなテーマとなっています。これらの活動は、住民が地域に関心を持ち、実際に関わっていく上で、非常に重要となってきています。このように言ってしまうと、従来の「まちづくり」との違いがあまり感じられないかもしれませんが、エリアマネジメントとは、「地域の価値向上」を明確に目的としているところに違いがあると考えています。

 先に述べたように、これからの人口減社会では、何も手を打たないとただただ人口が減少し地域は沈んでいってしまう状況になります。したがって、いかに地域に付加価値を与え、住まう人を確保していくのかということが重要になってきます。良好な住環境を維持するためには、ハード、ソフトを対象にした総合的、戦略的な価値向上のためのマネジメントが必要だと言えます。

◇ 個人の土地所有意識がもたらす課題
 戸建住宅地をマネジメントする主体としては、当然、住民が挙げられますがしかし、「地域の価値向上」という視点で考えた場合、本当に住民だけでいいのかという問題意識があります。

 そもそも、日本において持ち家政策が進められた背景には、土地の所有権に関する意識のありようが大きく影響を与えていると考えています。つまり、自分の土地を所有し、自分の思い通りの家を建て、一国一城の主になることが、目標となっていると思われます。多くの住宅地において、そのような意識があるなかで、住民が、地域全体をトータルに考えることは困難となっていると考えられます。よく言われる「総論賛成、各論反対」ということが、まさにこれにあたると考えられます。そのような中では、結果として、「やりたい人が集まって、やりたいことをやる」という単発的な活動をベースとすることになり、それをどう地域の付加価値に結びつけていくのか、見失われることも多いのです。そこで、地域の価値全体をマーケットとするような視点から、民間事業者によるビジネスとして住宅地にアプローチできないかということが考えられるのです。

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