2009年11月10日
良好な住宅地であり続けるために 全編
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2009年11月10日
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編集局 添田昌志
今回は典型的な郊外の戸建住宅地である「たまプラーザ」(美しが丘2、3丁目)を対象に、これからの人口減社会をふまえて、郊外住宅地の住環境を良好に維持していくための方策について考えてみたいと思います。
「たまプラーザ」は、東急電鉄田園都市線で渋谷から急行で約20分(20km圏内)の場所にあるまちです。田園都市線沿線は、東急電鉄が1960年代後半から、鉄道整備及び駅後背の住宅地開発(主に土地区画整理事業)を行ってきました。特に1977年の新玉川線開通(二子玉川園-渋谷間)以降は沿線の利便性が高まり、人気のエリアとなりました。中でも、たまプラーザ周辺は沿線きっての高級戸建住宅地として、1980年代に放映されたTVドラマ「金曜日の妻たちへ」の舞台にもなり、その名を広く知られるようになりました。
三井所隆史氏略歴
2002年北海道大学大学院博士後期課程修了
2002年(株)市浦都市開発・建築コンサルタンツ(現 (株)市浦ハウジング&プランニング)入社
2008年(株)市浦ハウジング&プランニング退社、みいしょ計画研究所設立
(株)市浦ハウジング&プランニング在職時より、国交省等のエリアマネジメントに関する調査・検討に携わる。専門分野は住政策、エリアマネジメント
― ビジネスとしてのエリアマネジメントとはどういうことでしょうか?
◇ マンション型の管理は困難
例えば、マンションでは、区分所有法にもとづき管理組合が設立されます。管理費、修繕費を徴収し、積み立て、その資金によって廊下やエレベーターなどの共有部分の管理を管理会社に一任しているところも多いです。このような方法を一般の住宅地に適用できないか、というのがまず考えつくところです。しかし、住宅地にはマンションのように責任を持って決定する住民組織は一般的にはなく、また、管理の対象や内容が必ずしも定格化されていません。つまり、誰がお金を集め、どの範囲の管理をどう行っていくのか、また、それに関してどのように意思決定を図っていくのかという枠組みができていないのです。したがって事業者側としても効率的な事業スキームを設定できずにいます。このようなことが要因となって、民間事業者による(戸建)住宅地におけるエリアマネジメントへの関与は、これまで限られたものとなっていました。
前回は、住政策の専門家である三井所さんにエリアマネジメントという観点から良好な住宅地を維持するための民間事業者の取り組みについてご紹介いただきました。今回は都市計画や建築設計の専門家でもあるジャーナル編集局員を加え、郊外住宅地たまプラーザの課題や価値について議論した座談会の模様をお送りします。
郊外住宅地としてのたまプラーザの特徴
◇ 質も住民意識も高い住宅地
大澤:まず、三井所さんに、たまプラーザの住宅地としての特徴を伺うところから始めたいと思います。
三井所:たまプラーザは、他の郊外住宅地と比べて何がいいかと言うと、フットパスを自然な形で入れ、クルドサックをしているなど、その当時の計画論を踏まえてきちんと作りこんでいることです。緑も豊かで、道路と敷地の生け垣があり、その手前のところにもまた緑を入れるという二重植栽をやっていて、それを維持しようという意識も持たれています。それが協定委員会の立ち上げや、協定の見直しということに表れています。ですから、ハードの環境とそれを維持しようとするソフトの取り組みということに関しては、ある程度完成された状況になっていると思います。
よく手入れされた「二重植栽」
敷地分割は悪か
◇ 何のための180㎡か
大澤:今、たまプラーザでは敷地分割されている事例が多く見られます。この分割というのは、当然地区協定で定められている「1つの敷地は180㎡以上とする」という制約は守っているわけですが、この敷地分割という事象を、ルールを守っているんだから別に問題ないんだと捉えればいいのか、いや180㎡というのはあくまでも最低限の基準であって、本来のたまプラーザ、美しが丘らしさみたいなものから考えると、望ましい規模は300㎡なんだという風に考えるべきなのか。つまり、敷地分割=悪と単純に捉える傾向もありますが、敷地が細分化されていくことの何が具体的によくないのかを考えてみたいと思うのですが。
良好な街であり続けるために
◇ 何をもって価値とするのか
川上:結局、考えていくと、何をもって良好な住宅地が維持されたと評価すればいいのかというところにたどり着きます。やっぱり地価なのでしょうか。
大澤:それも一つの指標かもしれないですよね。
川上:それとも生け垣のある家が立ち並ぶ街の姿なのでしょうか。要するに何をもってこの「たまプラーザプロジェクト」を成功だとするんでしょうね。本来、街というのは自然発生的に出来ているから、色々なものの新陳代謝があることで維持できていると思うんです。例えば佐原みたいに、歴史的な何かを残しましょうという街だと、それが維持できているかどうかを一つの評価軸にできるけれども、一気に建ってしまった郊外住宅地というのは、建物の一つ一つにコンセプトがあるわけでもないですよね。何となくの雰囲気で、いい住宅地でしょ?と言ってみても、結局いい住宅地とは何なんだろうと。
本来は地価が安いということも一つの評価軸だったのにもかかわらず今はやたらと高くなっていますよね。もともといい住宅地を安く供給したかったという思想もあった訳ですから、安く快適に意識の高い人たちだけで住みましょう、みたいな話でもいいんだと思うんです。結局、何を生活環境の基準とするのか、ということですよね。