町の資源を生かすために 田口一博氏インタビュー(4)
― 佐原のこれからの課題について教えてください。
◇ 仕事を持って佐原に戻る
今やろうとしていて、できつつあることは、一度佐原から出た子ども達が、仕事を持って戻ってくることです。佐原の場合、東京へ通うのはギリギリくらいの距離で、一回出て行ったらなかなか戻ってこなかったのが、地元で働く場所があれば、やはり戻ってくる訳です。今年は、イタリアで修行して腕を磨いて戻ってきて開業した、というのがあって、そういうような人たちが毎年少しずつ現れるようになってきているんです。子どもが帰ってくるのは親にとっては嬉しいようで、周りもそれで元気になっている。そこで商売が成り立って、お客さんが入って地元にお金が入る。このような仕組みが出来つつあります。
◇ B&B でさらにまちを楽しむ
次に考えることは、客単価を上げることです。このようにそのまま言ってしまうと、品がないんですが、やはり客単価を上げないとやっていけない。3年前に調べたところ滞在時間が大体2時間なんです。その中でご飯を食べてくれるといくらかは上がるのですが、東京みたいに電車で家に帰れないので、車で来ているとなると、ご飯を食べてもアルコールは飲めません。そうすると、客単価はなかなか上がらない。そこで、空いている蔵でもいいので、健全に泊まっていけるB&Bのネットワークを作りたいと考えています。車で来た、泊まる気はない、でも美味しかったからワイン飲みたい、でも飲んだら帰れない、といった時に、「B&Bで泊まれるところがいくつかありますのでいかがですか?」とワインを勧められないものかと。これをホテルとか旅館にしてしまうと囲い込みになってしまって、まちに人が出て来ないし、お客さんの目的が飲食だけになってしまう。だからB&Bにして、食べることはまちで提供して、さらに他の見るものなんかとも組み合わせたいと考えています。泊まった後に翌朝すぐ帰るだけでなく、佐原に来て同時に楽しんでもらえるような組み合わせが出来ないかということですね。例えば、合併した栗源(くりもと)という町にいろんな芸術家が集まるところがあって、そこで陶芸をするというような組み合わせはどうだろうと考えていくのが、これからの宿題ですね。
― 佐原から他のまちに伝えられることがあれば教えてください。
◇ あるものを磨いて、ないものを嘆かない
佐原から何を学び取るか、多分1つ言えるのは、「あるものを磨いて、ないものを嘆かない」ということです。これは本当に一貫していて、佐原でも新しいものは確かに作りますけれど、それはないものを作るということではなくて、あるものにどんどん磨きをかけて創るのです。そして、あるものに磨きをかけるためにはどうすればいいのかということを、行政と住民がそれぞれの役割の中できちんと考え行動するということです。
まちの中に飲食店が欲しい。まちでご飯を食べていってくれないと、客単価も上がらないし、必要だと。じゃあ、昔デパートのあった空き地に建てようと。そこで、どうやったら佐原の町並みにふさわしい木造の建物を建てられるのかということをトータルの仕組みとして作っていかなければならない。これはやっぱり行政の役割だと思います。ただ、行政の役割と言った時に、消防と都市計画と建築とが全部ばらばらにやっていたらダメですよね。
一方で、まちの人の合意を取り付けていくという話については、それを役所の人間がやるべきかといったら、そうとも言えないです。例えば、町並みの修景を考える時に、ここの家がそろそろ直さなきゃいけないなっていう順番は歩けば分かります。でも、それはそれぞれの家の事情に応じて声をかける。この家これから子どもが大学受験でお金を出せっていっても無理だから、じゃあ就職するまで黙っていて、こっちの家からやろうかと。そんなことはみんな分かっているんですよ。こういうことは役所でやったら、基準に当てはめて一律にということになってしまうんですね。制度はとても大事なんだけれども、それを相手に合わせてうまく使っていくことは、地域のコミュニティじゃなきゃできないと思います。
確かに、このようなことができる町がそれほどあるとは思いません。でも、絶対それが出来ない訳ではないとも思います。まちづくりというものは、初めにグランドデザインがあって、トータルにどうやっていこうという方向付けがなされて、最後に実現させていくのは一軒一軒の家がどういう風に協力するか、という話なのであって、これらの接合をどういう風に持っていけるのかということこそ、考えるべきことではないでしょうか。
以上のようなことをお伝えするには、やはりこのまちそのものを見にきて、色々な方から話を聞いて、その上でこの眺めができるのかということを理解していただくことが一番だと思います。そういう情報発信はおそらく佐原に来てもらえればできるのではないかと思っています。
- 投稿者:東京生活ジャーナル
- 日時:14:05
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