助け合えるまちのために 若林直子氏インタビュー(4)

― 港南防災ネットワークが発足してから十数年経っています。時代や環境も急激に変わっていく中、どのように活動を維持されているのでしょうか。

◇継続的にかかわる人々の存在
 事業開始から十数年も経ち、行政の担当者は何度も変わり、役所の組織上の変化もあり、そのたびに事業の方向性も少しずつ変化し、曖昧になりました。避難所となる学校の学校長も幾度も変わります。当然、コンサルタントへの区の事業委託も最初の数年だけです。私自身もこの十数年間で色々と立場が変わりましたが、港南防災ネットワークとは、毎年の総会に呼んでいただく、防災講演や訓練企画を担当させていただくなど、ずっとお付き合いが続いています。行政の担当者などがどんどん変わっていく中、防災ネットワークの意義や、どのような活動をすべきかなどをよく知る専門家として頼っていただけたのではと思っています。
 こういう活動は息長く続けることに意義がありますが、それには、活動する人が継続することも大事な要素になります。港南地区をはじめ、地域の役員さんたちは少しずつ人が変わりつつも、継続する人がネットワークの意義などをきちんと伝え、新しい人とともに発展させていっているように見受けられます。ただ、その活動を支援する立場の役所側で人が続かないのは、仕方のないこととはいえ地域にとっては痛いところですよね。

◇時代に即した新しいスタイル
 アクセスのしやすさ― 港南防災ネットワークは、そういう面でもとても参考になる組織です。港区内の防災ネットワークでは、その会員を「地域内に所在する町会・自治会、マンション管理組合、学校PTA、事業所等」に限っている場合が多いのですが、これでは「組織として」加入しなければならないので、新しいマンションの住民にとっては、実にハードルが高いんです。港南防災ネットワークでは、このような「組織としての会員」を「正会員」、組織でなくてもネットワークの目的に賛同した個人を「個人登録会員」として正式に認める規約を、最近つくりました。実際には、規約にする前から、個人を広く受け入れて一緒に活動してきているのですが、今回、正式に新しいネットワークの形を示されたのです。このように、門戸を広げてアクセスのしやすさを整えることは、時代、地域にあった有機的なネットワークのあり方の一つだと思います。


― 港南防災ネットワークの活動はボランティアに拠るものと伺いました。活動を通して、このような支援があったら…といったことがあれば教えてください。

◇行政にしかできないこと
 港南防災ネットワークは、今では、行政や学校よりも一歩も二歩も先を歩んでいて、逆に行政の担当者や先生方を啓発しているように見えます。しかも、その活動は100%ボランティアによって支えられているので頭が下がります。事務局の活動場所も全部自前です。このような中で、行政の方に是非お願いしたい具体的な支援策があります。ネットワークの活動場所として公的な場所を提供する、ネットワークへの問合せ窓口の一端を行政が担うなどの支援です。
 こういった支援は、新たにネットワークに興味を持った人への門戸が広がるという意味においてとても重要で、行政にしかできないことなんですよね。よく知らない個人宅(役員さんのご自宅)より、公共機関に対しての方が、一般にはずっとアクセスしやすいはずです。先にも述べたように、「アクセスのしやすさ」というのはコミュニティのあり方として重要ですから。


― 現在港南地区が抱える問題や課題などがありましたら、教えてください。

◇大規模タワーマンションの出現
 今、この地域が抱える防災面の大きな問題の一つは、やはり大規模なタワーマンションが多数出現したことですね。大規模マンションは、たとえば居住者の多くが地上に降りてきたらたちまち人口過密地帯なので、いざというときはトイレや水、情報の混乱、治安悪化などさまざまな問題が考えられます。コミュニティの助け合いや事前の対策などで切り抜けられる面もありますが、当のマンションには危機感を持っていない人も多く、結束も弱いですよね。マンションごとの災害対策もまだまだという状況で、たとえば水やトイレなどを備蓄しているマンションでも、住民はいったい何人なのかも把握できていないことが多い。ですから足りるかどうかわからないし、誰がどう配るのかも決められない、といった状況になっています。

◇コミュニティの大切さ 
 そういう中でも、いざというときに大事なのはコミュニティだと思います。でもだからといって、「いざという時のために近所づきあいを」というのはおかしいし続くわけがありません。人と人、人と地域がつながるのは、愛着とか関心とか、日常的でポジティブな感情が基本なはずです。でも、たとえば保育園や病院、駅までのバスやスーパーなど、生活に必要なもの全てが揃っているようなタワーマンションでは、そこで生活が完結してしまうため、地域とつながるきっかけは簡単には見つかりません。そういったときには、いざという時のことを考えることが、人と地域をゆるやかにつなぐ「きっかけ」になるかもしれないと思います。「防災」の出番、具体的には、港南防災ネットワークの「個人登録会員」制度などが活きてくるわけですね。

◇「よいまち」に向けて
 人と人、人と地域はつながらなくてはいけないのか・・・これは個人の価値観の問題でもありますが、災害時のことを考えると明らかにその方がよい。ふだんはあまり地域と関わりを持っていなくても「いざというときには地域の力で何とかできる」「地域の人たちは頼りになる」と考えている方が、日常も幸せなはずです。そういうまちは普段から「よいまち」だと思います。「よいまち」は、実際に大災害時にも強いのです。
 港南防災ネットワークの事務局の方々も、ご自分たちの活動を息の長いまちづくりの一環であると捉えています。そういう総合的な視点はどの地域でも必要不可欠なのだと思います。

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