助け合えるまちのために 若林直子氏インタビュー(1)
・若林直子氏プロフィール
(有)生活環境工房あくと代表取締役、博士(工学)
まちづくり、住民意識といった観点から、地域の安心安全を追求する防災コンサルタント。
地域防災力や被災生活問題を専門的に検討する一方、生活者が主体となって進める防災ネットワークづくりを各地で支援、「災害に強いまちは普段から住みよいまち」をモットーに、自然にゆるやかに地域がつながる仕組みづくりを提唱している。1988年筑波大学芸術専門学群卒業、1990年九州芸術工科大学大学院芸術工学研究科修士課程修了、2000年東京大学大学院建築学専攻博士課程修了。
インタビュー風景(若林直子氏)
― 災害時に強い地域のネットワークというのは、どういうものなのでしょうか。
◇頼りになるのは周りの人々
大地震が起きたときに被害や影響を小さくとどめるには、その地域で生活する人々、その場に居合わせた人々が助け合うことが大事です。瓦礫の下から人を助け出したり火を消したり、というのはもちろんですが、大混乱が一旦収まった後、ライフラインなどが復旧するまでの間の助け合いも不可欠です。いくら天変地異の大災害が起こっても、命が助かればその後の生活は継続していくわけですからからね。電気も水もガスもない、電話もほとんど通じない、正確な情報もない、電車も動いていない、お風呂も入れない、モノも買えない、料理もできない…、そのような中で頼れるのは、まずは周りの人々ですよね。
◇ゆるやかなつながりから
こういった地域の助け合いは、コミュニティがきちんと存在している地域では、自然に行われることを期待できると思います。しかし、オフィスワーカーなどで昼間人口が膨大、夜間人口も流動的で土地っ子が少ないという都心部では難しいのが現状です。
ただし、いくら都心でも、町内会、マンションの管理組合や自治会、学校PTA、オフィスなど、さまざまな集合体、グループがありますよね。このグループ同士をゆるやかに結ぶネットワークをつくり、いざというときにどう助け合うかという計画をその地域に合わせて立てておくと心強いです。
港南地区の様子
― 港区の「港南防災ネットワーク」もその一つということですが、どういった特色を持つネットワークなのでしょうか。
◇懐の深いネットワーク風土
ネットワーク結成から12年以上経ちますが、精力的に活動されています。この地域は、この10数年の間に、タワーマンションの建設など他に例がないほど劇的に変化しているので、普通だったら活動が続けにくいはずなんです。ところが、衰えないどころかますます頑張っておられて、どんどん発展している。
たとえば、新しく大型マンションが建つと、すぐに担当を決めて「ネットワークに入りませんか」と声をかけに行かれます。新築マンションに普通自治会などはないし、管理組合も軌道に乗っていない。どなたに声をかけるかで困ることも多いようですが、それでもちゃんとアプローチする。訓練や講演会など、ネットワークの活動もまめに案内されていて、初めて参加された人への対応がとてもあたたかい。こういった地域のネットワークでは、暗に組織や個人の格付けが行われていて、新しい住民は冷遇されることがままあるのですが、港南ではそういうことはないようにみえます。こうやって形成されるネットワークには、人と人との本当のつながりがあると思います。
◇変化への柔軟な対応
今、港南防災ネットワークの主要メンバーには、新しいタワーマンションにお住まいの方もおられます。一般に、地域活動はかなり保守的で、固定メンバーで行われることが多いのですが、港南は違うんですね。どんどん新しいメンバーを受け入れる。この方々が担当されてから、ネットワークの広報誌発行やホームページ作りが活発になっています。前はこういう活動がなかなか進まなかったんです。PCやネットのスキル、ネット環境が必要ですからね。新しいマンションには相対的にそういう条件が揃った方が多い。それに加えて、新しい住民の方にはこれまで住んでこられた地域での経験があるわけです。このように、時代や環境の変化に柔軟な対応をすることが、ネットワークの発展につながっているのです。
新しいマンション住民を「どうせ地域のことに関心もない」と切り捨ててしまう向きもありますが、「それはもったいないことなんだ」と、このネットワークを通じて勉強させていただきました。
- 投稿者:東京生活ジャーナル
- 日時:10:51