「団地再生」で再生すべきもの

 近年、「団地再生」という言葉をたびたび耳にするようになった。これは、昭和30~40年代に建てられ現在は老朽化してしまっている団地を、建て替え等によって新しく蘇らせようというものである。「日本一の大家さん」といわれるUR都市機構は、自身が管理する賃貸団地77万戸のうち、16万戸あまりをこの「団地再生」するべき対象として位置づけている。
 今回、その対象の1つになっている足立区の花畑団地を見に行った。昭和38年(1963年)から供給された全78棟2725戸の大規模な団地である。現在、ここでは再生計画(建て替え)に向けて9年間新規の入居が停止され、約1000戸が空家の状態となっている。また、居住者の65%が65歳以上で、高齢化も大きな問題となっている。そのため、やはり生活環境としては既に限界に来ているのであろうか、団地内の商業施設は閉鎖され、人気は少なく、巡回のおまわりさんばかりが目立つというかなり寂しい状況であった。再生は急務であると実感した。
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東西800mあまりにわたって伸びる花畑団地
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直線的に整然と並ぶ住棟

■再生の手法 
 方々で言われていることだが、この時代の団地はそのゆとりある配置計画に特徴がある。日照に配慮して隣棟との間隔は非常に広いものとなっている。このゆとり、つまり、余裕ある容積率を活かして、床(階数)を増やすというのが、これまでに見られる一般的な再生(建て替え)手法である。増えた床に新しい入居者を募ることによって、建て替えの事業費用を捻出しようとするもので、団地に限らず、再開発では常識的に使われる手法である。また、土地の一部を民間に切り売りし費用を捻出することもある。この団地の周辺は、民間のマンションも多く建設されており、土地の買い手や新しい住戸の借り手はいくらでも現れそうである。まだ詳細な計画は明らかにはなっていないが、この団地でも同様の手法が採られるものと思われる。
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非常にゆとりのある住棟間のスペース

 しかし、このような手法で「再生」された団地は、良くも悪くもその辺でよく見る「普通のマンション」になってしまっている。高層化することで、5階建ての低層住棟ならではのヒューマンスケール感が失われ、また、車に配慮して駐車場や進入路を整備することで、緑と土のオープンスペースが失われてしまっている。
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高層化によって再生された団地(埼玉県松原団地)

■団地ならではの価値
 私は、団地とは、その時代を超えた「新しい住まいの価値観」を示すものであったと考える。昭和30年代当時の団地は、洋式のダイニングキッチンや水洗トイレなどを取り入れたモダンで革新的な住宅であり、なによりも都市における新しい居住形態を示したものであった。それが50年近い時を経て、いつしか周辺のマンションに先を越されたため、今慌ててそこに追いつこうとしているように見える。しかし、目指すべきは「現在の標準」でいいのだろうか。単に現在に追いついただけでは、またすぐに取り残されてしまうことは目に見えているのではないだろうか。
 そもそも、今から50年後には日本の人口は現在の約6割の7500万人程度になると予測されている。そのような時代を見据えた時に、床を増やすことを前提とした計画自体に危機感を感じてしまう。採るべきは50年先にも「持続可能な」手法であって、現在の建て替え時の資金捻出に汲々とすることではないと思われる。50年先にようやく元が取れるというぐらいな長期的な視点に立って、50年先にもこの団地に住みたいと思わせるための、団地にしかない「新しい住まいの価値観」を作り出して欲しい、というのは、素人の浅はかな考えだろうか?
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窓一面に広がる緑のスペースは50年先も変わらぬ価値を提供し得ないだろうか

(添田昌志)