都市広場の使い方

メキシコの広場
 メキシコの東海岸にあるベラクルスは観光地としてはあまり知られていないが、スペインによる最初の植民都市で、それ以降貿易港として栄え今日に至っている。旧市街地に見る建物や都市の作りは、いわゆるコロニアル(植民地)様式で、さまざまなスケールの広場が点在している。そして、その広場が今日でも実にうまく使われている。市の中心部にあるアルマス広場は大聖堂や市役所などの歴史的建造物に囲まれ、またその一辺はバーやカフェが軒を連ねて、大変活気のある市民の憩いの場所となっている。特に夜になるとステージが設けられ、踊りを楽しむ市民でいっぱいになる。
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アルマス広場

 このアルマス広場から、数分歩くと、今度は規模の小さな町内の広場がある。ここは毎晩ではないが、決められた日にはバンドが入り、やはり屋外のダンス場と化す。広場に面する小さなカフェから出されたテーブルで飲みながら、近所から集まってきた老若男女のダンスと音楽が楽しめる。ここは市の中央広場のミニチュア版である。
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メキシコの都市構成と広場の役割
 ここで、メキシコの都市の作られ方について書かれた論文を思い出した。デニス・ウッドは1971年の論文で、都市の構造が小さな住宅のスケールから、近隣のスケール、そして都市全体のスケールまで同形のパターンの一貫した繰り返しであるとした。彼の調査した都市は、サン・クリストバルでベラクルスではないが、かなり共通している。
 メキシコの住宅は、パティオと呼ばれる中庭が中心にありそれを部屋が囲むコートハウスである。また近隣の単位であるバリオ(Barrio)には中央に小広場がある。さらに、都市の中心には中心に市民広場(ゾカロ)がある。同じような形状の繰り返しの(自己相似的な)空間構成となっている。
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 さらに、興味深いのは、それらの使われ方である。それを論文から引用すると以下のようになる。
「住宅のパティオは子供の主な遊び場であり、町内のバリオ広場は青少年の、街の広場ゾカロは年長の青年や大人のレクレーションの場となっている。政治や宗教、お祭りも同様に、最も下のレベルで学んだことが上位の場所での活動にスムーズに移されてゆく。」
 日本の都市にも「広場」と呼ばれる空間が作られることがある。しかし、そこが上手に使われているという話を聞いたことがない。子供のころから段階を追って公的な空間を他者とどう共有し上手く使うのかを学んだ人たちとの決定的な違いである。メキシコや南欧には伝統的に広場を使う習慣がある、と言ってしまえばそれまでだが、実は子供たちに文化を継承させる、つまり文化化(enculturation)するための空間が段階的に用意されているのである。日本の公共空間をどう作り、どう使うのか、一つのヒントとなりそうである。
(大野隆造)