都市の耐色力

東京の色
 景観法の施行以来、地方自治体が「色彩調査会社」に依頼して、自分たちの街の色分布を測り、基調色を求めようとする動きがあると聞く。かなり以前だが、名古屋が「白い街」と言われ、歌謡曲にもなった。では、東京の色は何であろう。数年前、東京上空をヘリで飛んだことがあるが、その時はグレイに見えた。
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空から見た東京の色

 しかし、街の色の判定は、それほど単純ではない。色の見え方には、「色順応」という現象があって、例えばピンク色のサングラスをかけると、かけたばかりは周りの世界がバラ色になるが、しばらくすると人の顔や木々の緑は元の色に戻ってしまう。これは普通に言う色順応だが、これとは違う「都市の色順応」現象があるように思う。
 海外から戻り、成田空港から東京を横切って自宅に帰るとき、どこに行って来たかによって東京が違って見える。ヨーロッパ帰りのときは、看板が目に付いて、なんて乱雑な色があふれた街だろうと感じるが、シンガポールから帰ったときは、なんて色気のない街だろうと感じてしまう。何時間か前に身を置いていた色環境の水準に慣れ、それに順応した目で東京を見ると、その評価がシフトしてしまうのではないかと思う。

シンガポールの街の色
 ヨーロッパの落ち着いた色の街を映像で見る機会は多いと思うので、ここでは、シンガポールのカラフルな街の様子を紹介しよう。まず驚くのが住宅の色である。
 いくつもの人種が混じり合って住むこの国では人々が住宅の色付けによって自らのアイデンティティを表現しているように思われる。しかし、そうだとすると集合住宅に付けられた色はどう解釈したらいいのか分からなくなる。
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プラナカン(混血コミュニティ)の家
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イースト・コーストのアパート

 店舗がカラフルなのはシンガポールだけではないが、店の色に合わせるように黄色縞に塗られた横断歩道は珍しい。こういった街をしばらく歩くと、違和感がなくなるばかりか、好ましくさえ思えてくる。夜の都心のライトアップは、期待通りの華やかさである。植民地時代のヨーロッパ様式の建物を利用した美術館も断続的に赤青黄と色を変えてライトアップされると、シンガポール好みになる。
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リトル・インディア界隈の店
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ジョー・チアット・ロードの店
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クラーク・キーあたりの夜景
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アート・ハウス(1827年築)

 東京では、原色に近い赤に塗られた建物が近隣からクレームを付けられる事件が時折ある。そこで話題になったどの建物もシンガポールに持ってゆけば、何の問題もないだろう。多様な色使いの許容幅が広いのである。この色使いの許容幅の大小を都市の「耐色力」と呼び、密かに都市の特徴を示す一つの指標にならないかと思っているのだが、どうだろう。
(大野隆造)