2007年11月 アーカイブ

丸の内の価値をはかる(1)マラソンランナーの視点-1

 2007年2月、東京マラソン。約3万人のランナーが東京中を駆け抜けた。
 42.195キロを走りながら都内の観光名所を巡るというユニークなコース設定は当初実現不可能と言われていたが、開催前からメディアの大きな注目を集め、厳密な時間調整による大幅な交通規制、多数のボランティアなど様々な人々の協力を得て最終的には大成功を収めた。
 東京マラソンは、この記念すべき第1回の成功を経て、ニューヨーク、ベルリン、ロンドンなど世界の都市マラソンの仲間入りを果たし、単なるスポーツの域を超えた新たな東京のイベントとして認められたと言えるだろう。
 私は運良く第一回東京マラソンの市民ランナーとして参加することができたのだが(図1)、ここで達成できた「走りながら東京を観察する」という貴重な体験を元に、ランナーというよりは都市の語り手としての立場から東京の魅力を解き明かしていきたい。
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図1:東京マラソンの風景(著者撮影)


■東京マラソン 演出された東京を眺める視点

 まず東京マラソンのコースを見てもらいたいのだが、世界の都市マラソンに比べると、いかに特殊であるかがよく分かる。
 ここではニューヨーク、ロンドン、ベルリンの事例を挙げているが(図2)、例えばニューヨークは幹線道路からマンハッタン島に入ってセントラルパークでゴール、ロンドンはテムズ川沿いを蛇行するなどそれぞれの都市の構造にあわせたコースになっている。
 その一方で東京マラソンは、都庁、東京タワー、浅草、お台場など東京の観光名所を半ば無理矢理直線で結んだような形(=Ⅹ文字型)でコースが形成されていることが一目で分かる。そもそも東京マラソンは東京オリンピック招致に向けたイベントでもあったので、東京という都市のプロパガンダの役割を果たすことを優先的に考えられており、X文字型のコースというのは、演出された東京を眺める視点を結んだ結果として浮かび上がったと考えられる。
 ならば、逆にこのコースを読み解くことで東京の価値を測ることができるのではないだろうか。ここでは特にX文字の中心付近である皇居とその周辺に着目し、そこにどのような価値があるのかについて語りたい。

図2:世界の都市マラソンコースの比較

(藤井亮介)
2006年 東京工業大学建築学専攻修士課程修了 
現在、坂倉建築研究所勤務

豊洲の価値をはかる(4)街のスタイル-2

■評価3―何のための歩道?
 人が過ごすための場となっている表参道の歩道や、通路としての機能に徹している秋葉原の歩道を見た目で豊洲の歩道を見ると、なんとも中途半端である。とりあえず自動車用道路は何車線も確保した。歩道もゆったり取らねばバランスが悪い、車にやさしいなら人にも、といった風情だ。休日ともなれば、歩道を多くの人が行き交うのか。通路として、朝夕に駅やバス停に通う人の流れと、昼間や休日に商業施設に行く人の流れくらいか。しかも、歩いても別に楽しく感じないのっぺりした作りなのだから。
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左:写真を撮っている歩道を後方に進めば、ららぽーとがある。街路樹だけはたっぷりと植えられている。この街路樹が大きくなれば、それなりに立派な景観にはなるだろうが‥‥
右:さすがに、いたるところにガイドマップがあって、だいたい迷わずに歩ける。しかし、普通の都市部の歩道の倍はある歩道

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歩いて楽しい商店街はどこに?と思ったら、ショッピングモールの中にあったのだった。いま流行のやり方とはいえ、街路の無機質さとシンクロする無機質な商店街。縁日のようなショップでさえ、嘘っぽさありあり。

■評価4-「島」の交通は課題
 住民が一気に増え、しかも「島」であることから、交通が将来の大問題になることはすぐわかる。自転車は、島のなかだけを回ることを想定しているのか。バスは、増やせるのか。地下鉄は、利用客をさばききれるのか。「足」は都市開発の際に齟齬が起きやすいが、どの程度の想定をしているのだろうか。
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左:とにかく自転車。エコないまどきの人が住んでいるためではないだろうが、たいへんな自転車の量だ。広大な歩道は、自転車の人が多いことを想定していたのか。
右:広大なバスターミナル。路線はこれから増やすことを想定しているのか。だだっぴろいだけでは、交通の便が使いやすくなるわけではないのだが。

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行き先を見ると、「ここは都心なんだ」と感じさせる。東京駅八重洲口行きと丸の内口行きもある。乗ってみたら、八重洲口まで30分以上もかかってしまった。

(辰巳 渚)


豊洲の価値をはかる(3)街のスタイル-1

■ニュー下町ファミリーの街
 豊洲は、新しい街だ。街はみごとに格子状であり、道路幅は広く、街路樹は規則正しく植えられ、輝くビルが立ち並ぶ。それなのに、歩いてみるとそこはかとなく庶民っぽい。「勝ち組」の六本木ヒルズとは違うだろう、とは当然ながら、東京山の手の新興住宅地にあるような、中流気取りっぽさはない。生活密着型、東京下町リアルライフの風情が、作りかけのほやほや状態であってさえただよう。
 ベビーカーを引き引き、「今まで家事をしていました」というスタイルで歩く若い夫婦。ショッピングセンターの自転車の山。自動車ではなく、ベビーカーと自転車の街なのだ。カフェテラスには、若いお母さんたちがおしゃべりしながら子どもを遊ばせている。ららぽーとは、巨大な井戸端だ。人から見られることを、ほとんど意識していない場なのだ。
 この下町感は、地場が作り出すものだろう。東京の西側にはなくて、東側にある土地の効力だ。「銀座まで自転車で15分」も、おしゃれさではなく、「銀座に近い、新しい下町(町人の住む町・その町で暮らす人が住む町)」であることを想起させる。しかし、今の庶民っぽさ=ニュー下町ファミリーを思わせるからといって、ここでリアリティある暮らしが営まれていると認められるわけではない。嘘っぽさ、作りこまれた自然さは、この層の特徴とも言える。


■評価1―住む人のための街

 あたりまえかもしれないが、豊洲はマンション群をメインにした再開発の街だと認識した。高層マンションと、住む人のための商業施設でできているのだ。水曜昼過ぎにフィールドワークしたこともあり、行き場がないと言われている若い母親と子どもたちが、かなりの割合で見られた。
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左:ららぽーと入り口。豊洲を歩いている人 ―子連れの主婦、おひとり様の女性、ビジネスマンの黄金の取り合わせ。
右:遠くから来たというよりは、近くに住んでいる人が家族連れで歩いている印象。平日の昼間なのに、家族連れ(夫婦+ベビー)が多いことも特徴。
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左は旧市街?との境目にあるショッピングモール。右はららぽーと。テナントを見ると、いまどきの一般庶民のライフスタイルそのもの。私はこのラインナップから『オレンジページ』『すてきな奥さん』などの20代主婦向け雑誌の購買層をイメージした。

■評価2―作りこまれたナチュラル
 とにかく緑を増やそうと躍起になっている街だ。緑のない街に暮らす下町には、軒下園芸という伝統があるが、この下町では再開発の勢いに任せて木を植え続けている。しかしその「緑豊かな」街並みも、作りこまれたナチュラルさであり、これこそがいまの若い世代向けの住宅街であることの特徴だと思う。
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左:そう考えていたら、ありました、ナチュラルローソン
右:旧市街?に入ったとたんセブンイレブン。この雑然とした感じが、嬉しくもまたうっとうしくも感じた。でも住民に使い込まれている感じがある。

(辰巳 渚)

地下で見る都市の顔(2)

 しかし、何と言ってもモスクワの地下鉄の自慢は、モザイク絵画、装飾、照明、ステンドグラスが醸し出す落ち着いた雰囲気のインテリアである。この都市には地中深くに市民のための居間があるようにも見え、実際にここのベンチで待ち合わせをしている人も多い。殺風景な東京の地下鉄駅で待ち合わせをする人がどれほどいるだろう。
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モスクワ地下鉄の地下深くにある居間のようなインテリア
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モスクワのステンドグラスのある地下鉄フォームと東京の明るい地下鉄フォーム

 明るく機能的といえば聞こえはいいが、あまりに効率的な移動空間は気が休まらない。そればかりか、近年、隣接する駅のプラットフォームをつないで改札口を集中する改修が進められている。そのために、電車から降り立って、地上に出るまでに一旦、下階にある改札口まで降りなくてはならない場合があるようになった。火災等の緊急時に、地下から地上に避難しようと上りの階段を探すのが自然であるが、それが見つからないのである。私たちの研究でも、緊急避難時に下方への階段を使うよう指示された場合、かなり強い心理的な抵抗感を持つことが示され、いざという時の混乱が懸念される。ロンドンのキャナリー・ワーフ駅では、それが意図されたか不明だが、避難時に光に向かって行く人間心理と矛盾しない出口となっている。ちなみに、モスクワの深い地下鉄のエスカレータの底にはブースがあって、中年女性の監視員が行き交う乗降客を見守っていた。
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この地下鉄プラットフォームの案内サインの矢印は全て下向き
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複雑に連結された駅内空間(表参道)
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キャナリー・ワーフ駅(ノーマン・フォスター設計)-写真左
深い地下駅に導く長いエスカレータ(モスクワ)-写真右

(大野隆造)