楳図邸騒動から景観を考える(2)
前回、マスコミ諸氏は周辺の景観と合わないと言いながら、「周辺の景観」については誰も論じていない、とここに書いた。それを知ってか知らずか(もちろん知らないと思うけれど)、9月1日付の朝日新聞がこの件に関して興味深い特集記事を書いていた。「もっと知りたい 楳図かずお氏新居巡り騒動」と題されたその記事では、記者が周辺を歩いて家並みの壁の色を調べた図が掲載されている。写真を使わないのは、やはりプライバシーに対する配慮なのだろうだが、周辺の住宅がどのような色をしているのか言葉で表現することを試みている。言葉では実際の様子がなかなか伝わりにくい面ももちろんあるが、このような周辺へのまなざしは評価したい。
■表現の自由VS公序良俗
この件は、先日、楳図氏が地裁からの和解提案を「自己表現のひとつ。変えることはできない」と拒否し、さらに混迷の一途をたどるようである。氏は赤白縞について、「生命感が感じられ、すごく好き。ハッピーな色」とかなりの思い入れがあるようだ。表現の自由VS公序良俗という構図がここに見られる。ところで、表現の自由といった場合、今回、気になるのは、表現そのもの(つまりここでは赤白縞の家)の妥当性が批評されているのではなく、表現者個人のイメージが槍玉にあげられている感じがする点である。「気持ち悪い漫画を書く人が建てる家だから気持ち悪いに違いない」という短絡的な決め付けが少なからず見受けられる。万が一、これが著名建築家が設計したものであれば、どのような判断になるのだろうか?やはり赤白縞はおかしいと真っ向から訴え、マスコミもきちんと対処したのであろうか・・・?それとも著名建築家なんだから、これは素晴らしい作品なのだと通ってしまわないだろうか?何が本質的問題で、議論すべきは何かということを、しっかりと見据え、伝えることが少なくとも私たち専門家には求められている。
(添田昌志)
- 投稿者:東京生活ジャーナル
- 日時:23:53