2010年07月16日
あかりで何を照らすのか 全編
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- 東京生活ジャーナル
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今回は、「光のまちづくり」を提唱されている照明家の角館政英氏にお話を伺いしました。角館氏は従来の画一的な街路灯のあり方に疑問を呈し、人々の生活に根ざした親しみのある照明を追及するため、住民を交えた照明実験ワークショップを行うなど全国各地で精力的に活動されています。
あるべき光環境とはどういうものなのか、それが実現することによって物理的な環境だけでなく、住民の気持ちがどのように変化していくのかなど、「光のまちづくり」の意義について語っていただきました。
「光のまちづくり」事例(左:横浜元町、右:岩手県大野村)
角館政英氏プロフィール
照明家、一級建築士、博士(工学)
ぼんぼり光環境計画代表取締役
日本大学理工学部建築学科卒業、同大学院建築学専攻修士課程修了、2009年博士(工学)取得。
TLヤマギワ研究所、ライティングプランナーズアソシエーツ(LPA)を経てぼんぼり光環境計画設立。
金沢美術工芸大学非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師、関東学院大学非常勤講師など。
― なぜ銚子のような街路灯が多いのでしょうか。
◇ 実態にそぐわない基準
そもそも光環境を設計するには、照度基準というのがあります。この基準を守らずに何か問題が生じた場合は、国の責任になってしまいます。だから、国の担当者は当然、照度基準を守るように指導するのが常識となる。ここで、日本の歩行者のための照度基準についてお話します。
今月の東京生活ジャーナルでは、先月に引き続き「光のまちづくり」を取り上げます。角館氏が岩手県大野村や富山県八尾町で行った住民参加の光の実験の概要や、そのような取り組みを都市にも広げていく際の課題について伺っていきます。
― 住民も参加して光環境を整える「光のまちづくり」を多く手がけられているそうですが、その概要や住民が参加することの意義について教えてください。
◇ 安心・安全な光環境を求めて
岩手県の大野村(現:洋野町)でも横浜・元町と同じような実験を基に街路灯整備を行いました。大野村では、まず夜間歩くことに対する住民の意識調査から始めました。その結果、人は歩行中、溝につまずかないかなどの路面の状態だけではなく、街路の周辺部に存在する奥まった空間に対して不安感やストレスを抱いていることが明らかになったのです。そこで、私たちは路面上の明るさを確保するよりも、街路周辺に点在する暗闇であったボイドの不安感やストレスを軽減させる光環境を導くための実験を行いました。ちょうちんや行灯を使ってボイドを照らすという手法で新しい光環境を創り出す実験を行い、不安やストレスの主な原因となる2つの項目について評価してもらったところ、横浜・元町での実験結果と同様にボイドに光があることで不安感が軽減することがわかりました。また、実験に合わせて光環境について住民アンケートを実施したところ、大半の人が明るい、歩きやすいと感じていることがわかりました。
光の実大実験の様子
― このような街路整備を通して、見えてきたこともあると思います。
◇ 事例を積み上げること
このような街路整備を進める中で、一番のポイントとなったのは、実験結果報告でした。僕のようなデザイナーがこういう風にやりましょうよと言うと、住民の方からは了解を得られやすい。ところが、役場はなかなかOKを出してくれないのです。言っていることはわかるけど、という段階で話が終わってしまうのです。それは、今まで仕様設計が当たり前だったので、僕たちがやろうとしている性能設計では客観的な指標がないからなのです。そういった時に、大学や学会の報告書が客観的なデータとして役場の人に非常に説得力を発揮してくれたのです。
個人的には、やはり照明というものを考えるときに、性能設計に基づいた最小限の光環境を創ることによって、実は街が浮き立ってくるのではないかと思っているんです。
しかし、事例が今はあまりにも少ない。性能設計という事例が今は少ない。ですからこういう事例を、やはり誰かが作っていかない限り、日本の光環境というものが根底的に変わっていかない。そういう認識をしています。これはもう地道に事例を積み上げていくしかないなと思っているところですけれどね。性能設計の良い事例を、いかにわかりやすく作れるか、というのが、僕の課題だと思っています