都心景観の再構築に向けたルールづくりとその運用 ~大丸有・銀座・御堂筋を例に~ その1

編集局 大澤昭彦

1.はじめに

私は東京生活ジャーナルで主に、街の景観をどのように形成していくか、という視点で考察を行ってきた。本稿では、特に、都心の景観づくりという視点に絞り、東京生活ジャーナルで取り上げた大手町・丸の内・有楽町(以下、大丸有)地区、銀座地区の2地区に加え、大阪の御堂筋地区を取り上げ、それぞれのルールづくりや運営手法の特徴を比較・整理することで、都心景観の再構築に向けたルールのあり方を提示し、まとめとしたい。

東京生活ジャーナル 丸の内地区
東京生活ジャーナル 銀座ルール

1990年前後、東西の都心、大丸有地区、銀座地区、御堂筋地区においては、景観の再構築が共通の課題となっていた。それぞれの地区では、かつての絶対高さ31m制限下で建てられた建物の更新時期を迎えるとともに、都心部における他地区との「地区間競争」の激化といった要因が重なったこともあり、抜本的な市街地の更新が図られていくことになる。

市街地の更新にあたっては、いずれの地区でも容積率の緩和が推進力として活用されている。容積率の緩和による街並みの変化は避けられない。しかし、野放図に変化を認めるのではなく、それまでに形作られてきた地区の歴史的な背景を踏まえつつ、都市の価値を高めるための街並みのあり方を地元と行政が模索しながらルールとして規定、運用している点が特徴と言える。

そういった意味で、街並みの現状凍結ではなく、都心景観の再構築を選択した大丸有、銀座、御堂筋の各地区のルールづくりや運用手法は大いに参考になる点がある。

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都心景観の再構築に向けたルールづくりとその運用 ~大丸有・銀座・御堂筋を例に~ その2

3.「硬いルール」と「柔らかいルール」の併用

それぞれの地区は3つのタイプに分類できるが、共通点も見られる。それは、地区計画等の都市計画による「硬いルール」と、ガイドライン・要綱等の法的拘束力のない(もしくは弱い)「柔らかいルール」を併用していることである。
前者はルールの実効性を担保できるというメリットがあり、後者は明示的なルール化が難しいデザインの質的な側面を扱うことができる。それぞれの利点を活かし、補完し合いながら、ルールを策定・運用している点が特徴と言えるだろう。

とはいえ、それぞれのルールの関係・役割分担の方法はそれぞれ少しずつ異なる。
例えば、地区計画(硬いルール)と地域ルール・要綱(柔らかいルール)との関係について見てみると、大丸有地区は、地区のマスタープラン及び地域ルールである「まちづくりガイドライン」や「デザインマニュアル」をベースに、その内容の一部を地区計画に移行している。

一方、銀座地区では、まず地区計画等の都市計画に基づく「銀座ルール」を地元と中央区が協働で策定し、数値基準のみでは誘導できない質の部分を補完するために「銀座デザインルール」を地元が策定している。
そして、御堂筋地区では、指導要綱に基づくルールが基本であるが、地区計画では指導要綱では規定されていない用途の制限を行っている(御堂筋にふさわしくない用途のネガティブチェック)。

つまり、大丸有地区では、地域ルールの一部を地区計画で担保するという流れであるのに対し、銀座地区では、地区計画でカバーできない部分を地域ルールで補っており、逆に、御堂筋地区は、指導要綱で規定していないが、街並み形成上必要な事項を地区計画で補完するという形を採っているのである。

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都心景観の再構築に向けたルールづくりとその運用 ~大丸有・銀座・御堂筋を例に~ その3

5.景観の再構築に向けて

大丸有地区と銀座地区では、地元組織が主体となって作成した地域ルールが存在する(大丸有地区:まちづくりガイドライン・デザインマニュアル、銀座地区:銀座デザインルール)。
両者の共通点は、1)高さ等の数値化できるものは明示していること、一方、2)デザインの質に関わるルールは必ずしも固定的なものではなく、むしろ運用を積み重ねながらブラッシュアップさせることを前提としていること、それゆえ、3)必ずしも質に関わる部分を客観的な数値基準として明示せず、方針的・定性的な基準(緩やかな指針)をベースに、事業者との協議を経ながら即地的な解を導き出そうと試みていること、の3点に集約できると思われる。

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1年間の総括として 街の価値とルールのあり方

編集局 大澤昭彦

 八潮のまちづくりに関わる曽我部氏は「一般的な景観ルールのような規定」や「最低基準」を定めても街は良くならないと述べている。
 確かに、最低限のルールによるネガティブチェック的な規制は、建築紛争を予防し、最悪の事態から街を守る防波堤にはなるが、街を積極的に良い方向への導く推進力を持たない。

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良好な住宅地であり続けるために 三井所氏+編集局員座談会(1)

 前回は、住政策の専門家である三井所さんにエリアマネジメントという観点から良好な住宅地を維持するための民間事業者の取り組みについてご紹介いただきました。今回は都市計画や建築設計の専門家でもあるジャーナル編集局員を加え、郊外住宅地たまプラーザの課題や価値について議論した座談会の模様をお送りします。

郊外住宅地としてのたまプラーザの特徴

◇ 質も住民意識も高い住宅地
大澤:まず、三井所さんに、たまプラーザの住宅地としての特徴を伺うところから始めたいと思います。

三井所:たまプラーザは、他の郊外住宅地と比べて何がいいかと言うと、フットパスを自然な形で入れ、クルドサックをしているなど、その当時の計画論を踏まえてきちんと作りこんでいることです。緑も豊かで、道路と敷地の生け垣があり、その手前のところにもまた緑を入れるという二重植栽をやっていて、それを維持しようという意識も持たれています。それが協定委員会の立ち上げや、協定の見直しということに表れています。ですから、ハードの環境とそれを維持しようとするソフトの取り組みということに関しては、ある程度完成された状況になっていると思います。

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よく手入れされた「二重植栽」

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良好な住宅地であり続けるために 三井所氏+編集局員座談会(2)

敷地分割は悪か

◇ 何のための180㎡か
大澤:今、たまプラーザでは敷地分割されている事例が多く見られます。この分割というのは、当然地区協定で定められている「1つの敷地は180㎡以上とする」という制約は守っているわけですが、この敷地分割という事象を、ルールを守っているんだから別に問題ないんだと捉えればいいのか、いや180㎡というのはあくまでも最低限の基準であって、本来のたまプラーザ、美しが丘らしさみたいなものから考えると、望ましい規模は300㎡なんだという風に考えるべきなのか。つまり、敷地分割=悪と単純に捉える傾向もありますが、敷地が細分化されていくことの何が具体的によくないのかを考えてみたいと思うのですが。

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良好な住宅地であり続けるために 三井所氏+編集局員座談会(3)

良好な街であり続けるために

◇ 何をもって価値とするのか
川上:結局、考えていくと、何をもって良好な住宅地が維持されたと評価すればいいのかというところにたどり着きます。やっぱり地価なのでしょうか。

大澤:それも一つの指標かもしれないですよね。

川上:それとも生け垣のある家が立ち並ぶ街の姿なのでしょうか。要するに何をもってこの「たまプラーザプロジェクト」を成功だとするんでしょうね。本来、街というのは自然発生的に出来ているから、色々なものの新陳代謝があることで維持できていると思うんです。例えば佐原みたいに、歴史的な何かを残しましょうという街だと、それが維持できているかどうかを一つの評価軸にできるけれども、一気に建ってしまった郊外住宅地というのは、建物の一つ一つにコンセプトがあるわけでもないですよね。何となくの雰囲気で、いい住宅地でしょ?と言ってみても、結局いい住宅地とは何なんだろうと。

 本来は地価が安いということも一つの評価軸だったのにもかかわらず今はやたらと高くなっていますよね。もともといい住宅地を安く供給したかったという思想もあった訳ですから、安く快適に意識の高い人たちだけで住みましょう、みたいな話でもいいんだと思うんです。結局、何を生活環境の基準とするのか、ということですよね。

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現場での交流がまちづくりを促進する

編集局 大澤 昭彦

■ 外部評価を取り入れるということ
 個人にせよ都市にせよ、自らを客観的に評価することは難しい。外からの評価によって、はじめて自らの価値や問題点に気づくことが少なくない。

 その点、佐原は客観的な評価を意識的にまちづくりに取り込んできたまちである。田口氏が「どの団体も行事が終わると必ずレビューをやるんです。それもできるだけ外部の意見を取り入れて。やった、終わった、疲れた、じゃあ先に進まないんで。自分たちで独りよがりになったら絶対にだめだと。市もそういう考え方だし、商工会議所もそうですよね。」と述べているように、佐原では外部の視点を大切にし、実践してきた。

 もともと佐原のまちづくりの出発点は、外部評価をきっかけとしたものであった。視察に来た飛騨高山の人からの「この川(小野川)すごいですね、どうしてまちづくりに活かさないんですか」との一言で、はじめて自らのまちの価値に気づいたという。

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防火地域・準防火地域における伝統的街並み景観の保全

編集局 大澤昭彦

 防火地域・準防火地域とは、建築物の不燃化により、市街地における火災の延焼を防止することを目的とした制度である(都市計画法9条20項)。
 防火地域、準防火地域内においては、表1に示すような構造制限を受けることになり、木造建築物であってもモルタル塗り等により外壁の防火性能を確保する必要がある。つまり、例えば杉板張りなど、木の素材が直接表面に見えるような建物は認められない。よって、地域内においては伝統的な木造建築物の新築、建替えができず、歴史的な街並み景観の継承が難しくなるといった問題が生じている。

表1 防火地域の構造制限(建築基準法第61条、第62条)
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銀座ルールから高さ制限のあり方を考える

編集局 大澤昭彦


■街路幅員に応じた高さ規制
 銀座ルール(地区計画)のポイントは、街路幅員に応じて建物高さを規定していることにある(表1参照)。

表1 銀座ルールによる高さ制限
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 「広い道には高い建物を、狭い道には低い建物を」と言えるこの考え方は、ヒューマンスケールな街路景観を形成するという観点から、非常に理にかなったものと思われる。銀座では、明治5年の銀座大火の後に策定された「銀座煉瓦街計画」において既に、そのような考えに基づいた規定が設けられ、高さの揃った統一的な街並みの形成が意図されていた(表2参照)。いわば、明治期に「銀座ルール」は存在していたのである。

表2 銀座煉瓦街計画における高さ制限
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