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●ザ・メインストリート
言うまでもなくこの街のメインストリートは表参道である。このことは、表参道に関する知識を全く持たずに、初めてここを訪れた人にも感じ取れることだろう。それは、幅30mの広い通りの両側に植えられたけやき並木に負うところが大きい。けやきの連なりが通りに統一感を与え、同時に、周辺の建物もけやきに合わせて高さが抑えられていることで、けやきの存在感が際立っている。これが、表参道に他の通りとは決定的に異なるアイデンティティを与えている。例えば、表参道と直行している明治通りの風景と比較すると、その違いが非常によく分かる。また、表参道は途中で緩やかにアップダウンしている。このことは、歩行者に人込みの中でも先を見通す視点を与え、視覚的な広がりを与えることに貢献しており、通りの印象、けやきの連なりに対する意識を強めていると考えられる。このように表参道は、歩行者の視点から、そのメインストリートとしての象徴性が存分に感じ取られるものであり、そこを中心に街が形成されている代表的な事例である。 |
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表参道のけやき並木〈B-1〉 |
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ガラス張りでお洒落にデザインされた地下鉄入り口。こういった要素も表参道のメインストリートとしての認識を高めるのに一役買っている。 |
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表参道とは対照的な人工的雰囲気の明治通り〈B-3〉 |
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緩やかにアップダウンしている表参道〈B-4〉 |
●消えた参道としての認識
その一方で、この表参道がその名の通り明治神宮の参道であるということを認知している人は少ないのではないだろうか。実際、下に述べるスケッチマップのいずれにも明治神宮は描かれていない。このことにはいくつかの理由が考えられる。
1. 表参道の入り口や途中、終点に神宮を象徴する鳥居がないこと。
2. 表参道が途中幅員の大きい明治通りと交差していること(表参道がここで途切れ、その先の明治神宮まで繋がっていると認知されない)。
3. 通り沿いに明治神宮とは無関係のファッション関係の商業施設が多いこと。
表参道は歴史的には明治神宮の参道として整備されたものである。その意味では、神宮が主、参道が従の関係であった。時が経ち街が発展していく過程で、その関係は完全に逆転してしまった、もしくは、完全に切り離されてしまったと言える。
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表参道より明治神宮入り口を眺める。神宮の象徴である鳥居などは見えず、知らない人にはここが神宮とは意識されにくい。〈B-5〉 |
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表参道の入り口にある灯篭。周りの風景に埋没して意識されにくい。〈E-6〉 |
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「参道」とは無縁のブランドショップが立ち並ぶ、ファッションストリートとしての表参道。〈E-7〉 |
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〈E-8〉 |
●表参道の裏側
表参道と明治通り以外の裏通りは、一転して、細く入り組んだものである。表参道の広い幅員とは対照的で、明確な違いが感じられる。表参道と明治通りが交わる周辺には、このような路地ともいえる空間に小さな商業施設が点在している。あたかも表参道の賑わいが街の内側へと浸透していくようである。一方、青山通りに近い神宮前4丁目、5丁目は閑静な低層住宅街となっており、メインストリートとは一線を隔した静かな雰囲気が漂っている。このように、表参道は表通りが単独で存在している訳ではなく、周辺の様々な雰囲気を持つディストリクト(地域)とうまい具合に共存しており、そこを訪れた人に単なるブランド通りではない、多様な表情を見せている。
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表参道から脇道を見たところ。溢れ出した立て看板が、人を奥へと誘い込んでいく。 |
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表参道に近い場所は低層部に商店が混在しているが、奥まるにつれ、住宅が多くなっていく。(神宮前5丁目)〈E-11〉〈E-12〉 |
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裏通りにある商店街。酒屋や食料品店など生活に密着した業種も見られる(神宮前6丁目)〈B-9〉 |
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閑静な住宅街(神宮前4丁目)〈D-10〉 |
●スケッチマップから見えること
下のスケッチマップは、表参道をしばしば訪れる人達に描いてもらったものである。これを見ると、どのスケッチマップにも、その中心には表参道が描かれており、文字どおり街の背骨として認知されていることがわかる。
その一方で、2人の女性の地図には、表参道から裏道に伸びる道が描かれ、そこに馴染みのお店が点在しているものの、男性の地図には脇道が全く描かれていないことが分かる。このように、街の認識の面的な広がりには個人差が見られ、表参道以外の脇道へ足を踏み入れるか否かは、その人の持っている興味の範囲に因るようである。しかし、このことは逆に、裏通りに自分だけが知っているお店を見つけ出す楽しみが備わっているとも捉えられる。そういう意味で、この街は、来る人に応じた多様な体験が用意されているとも言えるのかもしれない。
●表参道のアンビギュイティ
ここの街は表参道という唯一無二のメインストリートを持ち、それが街の明確な骨格を形成している。また、グリッド状の均質な街路割りとは異なり、性格が明確に異なる細い街路が、メインストリートを基点として裏側につながっていくことで、迷路的な側面も併せ持っている。したがって、街の構造としてはメインストリートを軸線とした一定の分かりやすさを補償しつつ、探索の楽しみを併せ持ったアンビギュアスな街路構成に近いものであると言える。
次に、表参道に建ち並ぶ建物について見ると、ここではファッション関係のデザインを追求したものが多く存在しているが故に、多様さの中にもメインストリートに相応しい一定の統一された表情が形成されていると言える。また、通りの裏側には、閑静な住宅街が広がり、生活感が醸し出された商店なども散見されるなど、街全体として見た時には、多様な種類の建物から構成されていることが分かる。したがって、ここを訪れる人には、その人の興味や立場によって、色々な意味が見出されることが予想される。ただし、建物の多くは近年に建築されたものであるため、歴史的な視点からの深みや探索の面白みに欠ける面は否めない。
以上を踏まえ、表参道の街の位置づけは下記の通りとする。
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