329 ヘルシンキ24h(フィンランド共和国)

329 ヘルシンキ24h

329 ヘルシンキ24h
329 ヘルシンキ24h
329 ヘルシンキ24h

329 ヘルシンキ24h
329 ヘルシンキ24h
329 ヘルシンキ24h

ストーリー:

 ヘルシンキの中心部から南に約2キロいったところの海沿いにあるヘルネザーリ地区は造船業が盛んな地区であったが、現在は33ヘクタールという広大な規模の再開発が進んでいる。この再開発の計画は2019年4月に認められ、そこには住宅、オフィス、公園、さらにはフェリーが停泊できる港湾機能も整備される。2024年5月にここを訪れた時点では、まだ土壌改良、埋め立て工事が行われているような状況であった。再開発事業が完了する2030年には、7,000戸の住宅、3,000人が働くオフィスがここに出現する予定である。また、ウォーターフロント沿いにはプロムナードが整備される計画である。
 この工事現場を目隠しするように1キロメートルに及ぶ長大な壁をキャンパスに絵が描かれている。この長大なる壁絵は、また公共的な空間と立ち入り禁止の工事現場との境界をも示している。そして、工事現場という人を敬遠させるような土地のつまらなさを人々が感じないように色彩豊かな一連の物語のような絵が描かれている。
 これは、また年間44万にも及ぶ、クルーズ船でヘルシンキを訪れる人達が最初に目にする光景でもある。さらに、この海岸沿いの土地は公園が整備され、その端に公共サウナ施設である「ロウリュ」が2016年につくられたこともあり、多くの人が訪れるようになっている。その人達から、工事現場を目隠しすると同時に空間を魅力的にするためにも、この壁画はプラスとなっている。
 この壁画は2017年の春、ヘルシンキ市役所とアアルト大学とがグラフィック・デザインの学生を対象にデザイン・コンペをしてその描き手を選考した。そこで選ばれたのがアーミ・テヴァ(Armi Teva)とミーア・ピュースティネン(Miia Puustinen)が提案した「ヘルシンキ24時間(Helsinki24h)」であった。これは、ヘルシンキの24時間を1時間ごとに区切って24の壁画で表現するというもので、ヘルシンキ郊外のショッピングセンターでの光景や、都心部のストリートの光景などが描かれている。
 これは、またヘルネザーリ地区の都市開発への関心を高めることも期待される。それが公開されたのは2018年6月12日であった。この日は公開イベントも開催され、二人の作者による絵の解説なども行われた。加えて、ヘルシンキの海岸部、特にヘルネザーリ地区の今後の開発計画などのパネル・ディスカッションなども開催され、このようなイベントで人々の意識を海岸部に向けることのきっかけを提供した。
 ヘルネザーリ地区の再開発事業は2018年から開始された。壁画の完成は工事開始の合図でもあったのである。

キーワード:

壁画,ブラウン・フィールド

ヘルシンキ24hの基本情報:

  • 国/地域:フィンランド共和国
  • 州/県:ウーシーマ県
  • 市町村:ヘルシンキ市
  • 事業主体:ヘルシンキ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Armi Teva、Miia Puustinen
  • 開業年:2018

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 都市は時代の流れとともに更新を伴う。都市更新をするうえでは工事をしなくてはならないが、これは都市において、様々なマイナス面をもたらす。まず見た目がよくない。そして、入ると危険であるので囲われる。それは通常、無味乾燥な金網のフェンスであったり、透過性のないただの壁だったりして、その存在自体が都市の魅力を大きく減衰させ、人々に近寄ることを敬遠させる。
 そのような壁を逆に魅力的なものにする、というアプローチはマイナスをプラスにするという点で「都市の鍼治療」的で費用対効果が高い。最近はそのような試みも多く為されるようになっているが、それが人々の関心を引くために一工夫あると、その新しい開発をアナウンスする効果にもなり、さらに効果的である。今回のプロジェクトでは、アアルト大学と連携し、市役所の手前味噌にならないような客観性を担保し、グラフィック・デザインの学生に絞りはしたが公開コンペをすることで市民の関心を高め、さらにはその公開イベントを行うことで、再開発プロジェクトが始まることを何気にプロモーションした。
 そして、この壁画で描かれているのが、ヘルシンキの日常的な光景であることがとても素晴らしい。そこには観光客を増やそうというシティ・プロモーション的な意識や、土地の経済的価値を高めようとするマーケティング的な意図といったヨコシマな気持ちはない。それが見せているのは等身大のヘルシンキである。しかし、都市観光が盛んになっている今、観光客はシティ・プロモーションやマーケティング的なものをむしろ避ける傾向が強くなっている。オーセンティシティ消費といったものが志向される中、この壁画はまさに多くのフェリー客やロウリュを訪れる観光客に好感を与え、またヘルシンキという都市への関心を刺激させるであろう。

【参考文献】
ヘルシンキ市のオフィシャル・ホームページ
https://www.sttinfo.fi/tiedote/68460753/a-kilometre-long-art-wall-to-catch-the-eye-in-hernesaari?publisherId=60590288

【取材協力】
ヘルシンキ市役所都市計画局

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