317 ウッチのEC1科学・技術センター(ポーランド共和国)

317 ウッチのEC1科学・技術センター

317 ウッチのEC1科学・技術センター
317 ウッチのEC1科学・技術センター
317 ウッチのEC1科学・技術センター

317 ウッチのEC1科学・技術センター
317 ウッチのEC1科学・技術センター
317 ウッチのEC1科学・技術センター

ストーリー:

 ウッチはポーランドの国土のほぼ中心に位置する都市である。ワルシャワから120キロメートルほど南西に位置している。ウッチが最初に記録に残るのは14世紀だが、しばらくは小さい農村であった。それが大きくなるきっかけとなったのは19世紀のウィーン会談でロシアの保護国になったことである。1821年にウッチを工業地域として開発することが検討され、織物工業や繊維工業が立地していく。これらの産業が急激に発達するのと同時にウッチの人口も急増していく。
 第二次世界大戦後はポーランドの暫定的な首都になり、移住者が増え、人口が再び増加し、社会主義時代に再び工業都市として位置づけられ、成長していく。ただ、1989年にソ連が崩壊した後は経済が崩壊し、人口も急減する。ウッチは現在ではポーランドで4番目の人口を擁する都市であるが、1989年時点ではワルシャワに次ぐ人口を有していた。1990年から2021年までの30年強で失った人口は20%以上。ポーランドの人口の多い上位10都市の中で、20%以上人口が減ったのはウッチとカトヴィツェだけである。その絶対数ではウッチはポーランドで一番、人口を減らしている。その背景には1989年の社会主義体制の崩壊と歩みを合わせて、ウッチ市の主要産業である繊維産業が崩壊したことがある。
 21世紀に入り、ウッチ市はこのような状況に強い危機意識を抱き、そのための人口減少政策を検討することになった。どうやって投資家を振り向かせるか、どうやって都市の魅力を向上させ、人々が他の地域に出て行かないようにし、観光客を惹きつけるのか。そして2007年に、ウッチ市はルクセンブルク出身の建築家であるロブ・クリアにマスター・プランを作成することを依頼する。クリアの提案は都心部にあるウッチ・ファブリチュナ駅が含まれる73ヘクタールという広大な土地を再開発するというものであった。そして、その案は既存の建物を刷新しつつ、そこに存在するウッチの都市を象徴するような工業建築遺産をしっかりと活かすことが提言されていた。
 そして、この地区にあった工業建築遺産がEC1であった。EC1とは、1907年にウッチ市で最初につくられた産業用の発電所である。それはアール・ヌーヴォー風の建物であったが、1930年にタービン施設が追加され、1943年の火災では屋根の部分が失われた。第二次世界大戦後、ウッチ市は新たな温熱ネットワークを整備することとし、市はこれ以外にも3つの発電所を建設する。それに伴い、これらの発電所はつくられた順番にEC1〜EC4と命名された。EC1は2000年に操業を停止し、その施設はすべて市に移管された。
 クリアの提案を受けて、ウッチ市の市議会は2008年、EC1の再生プロジェクトを起ち上げることを決議し、そのための組織を設立した。そして、EC1の建物群をしっかりと保全しつつ、それが現代的ニーズに合うようにその利用が考えられた。最初にリニューアルが完成したのはEC1イースト(東)であり、2016年に公開された。この施設はワークショップを含む文化的なイベントを行うための機能を具備していた。この施設にはプラネタリウムも入っており、その建物の意匠が独創的だということもあり、多くの人が訪れている。ここには、国立映像文化センターも入っている。その次のステージでは、EC1ウエスト(西)のリフォームが行われ、ここには科学・技術博物館が2018年1月に開館した。ここでは物理・化学・生物的な現象の展示が、来館者がインタラクティブに学べる形でなされており、青少年が楽しく知的好奇心を満たすのには相当、優れていると思われる。これは、またポーランド人がこの分野で人類が誇る人材を輩出したことを改めて認識させる。
 EC1の展示床面積は18,000平方メートル。その事業費は6,300万ユーロ、そのうちの1/3近くを欧州地域開発基金によって賄った。

キーワード:

アイデンティティ,産業遺産,再利用

ウッチのEC1科学・技術センターの基本情報:

  • 国/地域:ポーランド共和国
  • 州/県:ウッチ県
  • 市町村:ウッチ市
  • 事業主体:ウッチ市、文化・国家遺産省
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Home of Houses, Biuro Realizacji Inwestycji 'Fronton' and Mirosław Wiśniewski Urbanistyka i Architek
  • 開業年:2018

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 工業都市であったウッチという都市を彩る建築群のアイデンティティは強烈で明確だ。その伝統はしっかりと将来においても活かされるべきである。過去の工業の栄光はもう戻らないであろう。しかし、それらを忘却させるのではなく、工業都市の遺産を活用することでこそ、都市の未来が拓かれると考えられる。これは、ウッチのように、それまでの経済成長の牽引力であった工業からの脱皮を図るという試みで、ルール工業地帯がIBAエムシャー・パークで試みたことや、ビルバオそして北九州市といった工業都市・工業地域が試みたのと基本的には同じ戦略であり、工業からサービス産業への経済構造をシフトさせることと、工業都市のイメージの刷新が企図された。特に工業遺産である建築群を活かした観光資源の創造に力を入れることもポイントである。
 ウッチ市のEC1のリノベーションでも、その土地の特徴をしっかりと反映させると同時に、建物だけでなく都市の歴史もしっかりと観る者に伝えることが意識された。施設内容としては、国立映像文化センター、科学・技術博物館、プラネタリウム、子ども科学博物館などから構成される。科学・技術博物館における常設展示は「エネルギーの保全」「文明と知識の発展」「小さな世界 – 大きな世界」の3つである。国立映像文化センターは、2023年10月に開業し、ポーランドの120年に及ぶ映画史をはじめとして同国の映画関係の最大規模の資料を展示している。それはウッチ市と国家文化遺産省によって運営されている。2022年にEC1科学・技術文化センターは60万人の訪問客を数えた。
 EC1科学・技術文化センターは、大幅に改修されて2016年に開業されたウッチ・ファブリチュナ駅のすぐそばに位置している。この駅周辺はクリアの提案のもとに大規模な再開発が現在、進んでおり、同センターはこの地区が再生している象徴的なランドマークとしての役割を担っている。2017年にウッチ市はユネスコの創造都市ネットワークに加盟し、ユネスコの「映画都市」に認定された。   
 EC1という、ちょっと前までは廃墟であった都市の負の遺産を見事にプラスに転じることで、都市の未来に展望さえ開けさせたようなプロジェクトである。

【参考資料】
EC1のホームページ
https://ec1lodz.pl/
カルチャー・ポーランドのホームページ
https://culture.pl/en/article/making-over-a-city-reinvigorating-lodz-for-the-21st-century

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